気候変動への対応
ブラザーグループは世界各国・地域で事業展開するグローバル企業として、気候変動への対応を最重要課題の一つと位置づけています。そのための取り組みとして、開発・調達・生産・販売・物流などモノ創りのあらゆるプロセスで、多様な環境配慮と環境技術開発に向き合っています。これらの取り組みを進めていく上で、我々は、1999年に策定した「ブラザーグループ グローバル憲章」における基本方針の1つ、「ブラザーグループは持続的発展が可能な社会の構築に向け、企業活動のあらゆる面で環境負荷低減に前向きで継続的な取り組みをする」ことを大切にしています。この方針策定以降、ブラザーグループとして中期的な環境目標を定めて継続的な活動を推進し、グループ一人ひとりの努力により着実に成果を上げてきました。2018年には、「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」を策定、CO2排出削減を重要項目の一つに掲げています。また、気候変動(地球温暖化)抑制の世界的枠組みである「パリ協定」と整合するマイルストーン「2030年度中期目標」を設定しました。2025年3月には「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」のCO2排出削減目標を改定し、改定した中期目標は国際的なイニシアチブ「Science Based Targets initiative (SBTi)」から、パリ協定の「1.5°C目標」達成のための科学的根拠に基づく削減目標として認定され、その目標達成のためCO2排出削減活動をしています。ブラザーグループでは脱炭素社会の構築に向けさらなる活動を推進すべく移行計画の策定に取り組んでおり、世界的な気候変動問題の解決に貢献していくために、今後もさまざまな取り組みを続けてまいります。
気候変動対策のあゆみ
1999年 | 「ブラザーグループ グローバル憲章」策定 |
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2009年 | 2020年度までに達成すべきCO2削減目標となる「2020年度中期目標」を掲げ、CO2排出量削減の取り組みを開始 |
2013年 | CO2排出量削減活動の対象範囲をグループ全体に拡大し、さらには自社からのCO2排出量だけでなく製品のサプライチェーン全体におけるCO2排出量の算定と削減を開始 |
2018年 | 「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」を策定とそのマイルストーンとして「2030年度中期目標」を設定 環境ビジョンにおけるCO2排出削減「2030年度中期目標」が、国際的なイニシアチブ「Science Based Targets initiative (SBTi)」による「2.0°C目標」の認定を取得 |
2020年 | 「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言に賛同 TCFD提言に基づき、気候変動が主要事業に及ぼすリスクと機会を分析 |
2021年 | TCFD提言に基づいた関連情報開示 「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」のCO2排出削減目標(スコープ1・2)を改定 |
2022年 | 改定した環境ビジョンのCO2排出削減「2030年度中期目標」が、国際的なイニシアチブ「Science Based Targets initiative (SBTi)」による「1.5°C目標」の認定を取得 「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」の資源循環目標を改定 |
2025年 | 気候変動が全事業に及ぼすリスクと機会を分析し、TCFD提言に基づいた関連情報の開示を拡充 「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」の2030年度中期目標のCO2排出削減目標(スコープ3)と資源循環目標を改定 |
TCFD提言に賛同し、より一層の気候変動対策を推進
ブラザーグループは社会の発展と地球の未来に貢献するため、CO2排出削減をマテリアリティ(解決すべき重要な社会課題)の一つとして特定し、サステナビリティ目標を設定しています。2020年2月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明しました。
このTCFDの提言に基づき2021年度に、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業、マシナリー事業、パーソナル・アンド・ホーム事業および新規事業について、気候変動が事業に及ぼすリスクと機会を分析し、関連する情報を開示しました。2024年度には分析対象とする事業範囲を拡大してブラザーグループの全ての事業*について分析し、その分析結果を2025年度に開示しました。今後も情報開示の充足に努めるとともに、脱炭素社会の形成に貢献するため、より一層の気候変動対策を推進していきます。
- プリンティング・アンド・ソリューションズ事業、マシナリー事業、ドミノ事業、ニッセイ事業、パーソナル・アンド・ホーム事業、ネットワーク・アンド・コンテンツ事業および新規事業
- TCFDのサイトはこちら(「TCFD」(英文)のサイトへリンクします)
- TCFD提言:戦略 (シナリオ分析)
- TCFD提言:指標と目標
TCFD提言:ガバナンス
ブラザーグループは、マテリアリティを解決するための活動など、サステナビリティを重視した経営をグローバルに推進するため、代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ委員会を設置しています。サステナビリティ委員会の傘下には、気候変動や生物多様性など環境課題に対応する「気候変動対応分科会」と、人権尊重や安全な職場環境の整備を推進する「責任あるバリューチェーン分科会」など5つの分科会があり、それぞれが目標の進捗管理や活動推進を担っています。分科会オーナーは活動状況をサステナビリティ委員会へ定期的に報告し、委員長である社長または社長が指名する者は、年に1回以上、取締役会に活動内容を報告しています。
気候関連の環境リスクや環境課題に関する重要事項の策定や改定が必要な場合は、分科会やサステナビリティ委員会で検討し、戦略会議で審議したうえで、取締役会で決議されます。取締役会は、内容について指導・監督し、全社的な推進体制の強化に努めています。また、気候変動への取り組みの実効性を高めるため、主要な目標の達成度を役員報酬に連動させています。
【2024年度の開催状況】 | ||
気候変動対応分科会 | 3回 | |
サステナビリティ委員会 | 19回 | うち 気候変動対応分科会関連15回: 気候変動を含むマテリアリティ評価結果の報告・審議やスコープ3および資源循環目標改定に関する報告・審議、生物多様性保全に関する報告・審議など |
取締役会 | 1回 | サステナビリティ委員会の活動計画を報告 |
ブラザー工業株式会社ガバナンス体制図 (2025年6月25日現在)
TCFD提言:戦略 (シナリオ分析)
ブラザーグループは、「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」でCO2排出削減を重要項目の一つに掲げています。世界的に深刻化する気候変動を社会的な重要課題と認識するとともに、ブラザーグループの事業上のリスクと機会として捉え、長期的かつ継続的にその解決に取り組んでいます。
2024年度は、ブラザーグループの全ての事業について「1.5°Cシナリオ」*1と「4.0°Cシナリオ」*2に基づき、6つの重要なリスクと機会を特定し、自社の事業や財務に及ぼす影響を評価しました*3。この分析の結果、引き続きリスク、機会の両面において、ブラザーグループにとってカーボンニュートラル*4の推進が重要である事が再確認されました。事業戦略や事業活動に落とし込むため中期戦略「CS B2027」の「経営基盤戦略」の中で「環境へのコミットメント」を掲げ、CO2排出削減目標を設定し、重要な経営課題として活動を推進しています。
- 世界で温暖化対策が進み、脱炭素社会の実現に近づくというシナリオ
- 世界で現状を上回る温暖化対策がとられず、気温上昇がさらに進むシナリオ
- IEA (International Energy Agency)のWEO2023 APSシナリオ/NZEシナリオ、IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change)のSSP5-8.5シナリオ、Aqueduct(水リスク評価ツール)などを参照
- ブラザーグループから排出するCO2を全体としてゼロにする
シナリオ | IPCC AR6 SSP5-8.5 | IEA WEO2023 APS*1 | IEA WEO2023 NZE*2 | |
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主な前提条件 | 2100年までの気温上昇 | +4.4°C | +1.7°C | +1.4°C |
GHG排出量 | 2100 年でも ネットゼロ未達 |
2100 年でも ネットゼロ未達 |
2050 年に ネットゼロ |
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炭素価格 | ほぼゼロに近い水準 | 2030年以降上昇 | 2030年以降上昇 |
- APS: Announced Pledges Scenario (公約シナリオ)
- NZE: Net Zero Emissions by 2050 Scenario (2050ネットゼロシナリオ)
気候関連リスク
シナリオおよび分析手法
移行リスク・機会については、IEA WEO2023シナリオにおける将来予測データ(例:排出係数、炭素価格)やその他政府・国際機関による公開データ(例:GDP成長率)から、分析に必要な要素を特定し、当該データを用いて定量評価としての財務インパクトを算定しました。また、同シナリオにおける将来予測データを用いて、2030/2050年の世界観を理解し、定性評価を実施しています。
物理的リスク(急性)については、主にIPCC AR6 SSP5-8.5シナリオにおける将来予測を用いて、2030/2050年の世界観を想定しています。
移行リスク(政策・法規制リスク、市場の変化)
外部環境の変化 | 財務 影響 |
想定 時期 |
ブラザーグループへの影響 | 対応策 | |
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炭素税導入または炭素税率上昇 | 大 | 長期 | 調達:原材料コストの高騰 製造:エネルギーコストの増加 販売:運送燃料コストの増加 |
緩和 |
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省エネ・低炭素規制の強化 | 小 | 中期~ 長期 |
製造:設備投資、再エネ電力切り替えコスト、サステナビリティ関連規制/開示要求対応コストの増加 | 緩和 |
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環境・社会に配慮した製品需要の高まり | 中 | 中期~ 長期 |
通信・プリンティング機器分野における環境規制ならびに市場要請への対応遅れによる販売機会損失 | 緩和 |
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注) 財務影響度 小:10億円以内/中:10億円~100億円/大:100億円超/-:今後検討予定
想定時期 短期:会計年度をベースとする1~2年/中期:中期経営戦略を含む3~4年/長期:長期グループビジョンを含む5年以上
物理リスク(急性)
外部環境の変化 | 財務 影響 |
想定 時期 |
ブラザーグループへの影響 | 対応策 | |
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異常気象の激甚化と頻度の上昇 | 大 | 短期~ 長期 |
洪水の影響による生産停止 | 適応 |
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注) 財務影響度 小:10億円以内/中:10億円~100億円/大:100億円超
想定時期 短期:会計年度をベースとする1~2年/中期:中期経営戦略を含む3~4年/長期:長期グループビジョンを含む5年以上
日本において自然災害が多いことは世界的に認知されていることもあり、国内事業拠点については、国土交通省が公開するハザードマップを活用することにより水害リスクを評価しています。
また海外事業拠点については、国際環境 NGOの世界資源研究所(WRI)の「Aqueduct Water Risk Atlas」を活用することにより、海外の事業拠点における水害リスクについて評価しています。
気候関連機会
機会(製品とサービス)
外部環境の変化 | 財務 影響 |
想定 時期 |
ブラザーグループへの影響 | 対応策 |
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顧客のCO2排出量削減ニーズの増加 | 大 | 長期 | 販売:省エネ・創エネ・循環型関連の製品・サービスの需要・売上増加、電動化、燃料転換需要の増加 |
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環境・社会に配慮した製品需要の高まり | 大 | 長期 | 販売:脱炭素貢献(環境ラベル認定)製品・サービスの売上増加、環境対応可能な商品需要の増加 |
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注) 財務影響度 小:10億円以内/中:10億円~100億円/大:100億円超
想定時期 短期:会計年度をベースとする1~2年/中期:中期経営戦略を含む3~4年/長期:長期グループビジョンを含む5年以上
工作機械「SPEEDIO」シリーズは、高い生産性と省エネ性能を有している点が特長で、新モデルでは、大型部品の加工で一般的に使用される中型のマシニングセンタ(40番主軸)と比較して、消費電力を約80%、サイクルタイムを約50%削減し、約2倍の生産性を実現しました。このような省エネ性と生産性の高さに加えて、設計がコンパクトで省資源であり、世の中のニーズの変化を的確に捉えた製品である点が高く評価されています。
また未来創生ファンドは、投信投資顧問会社、自動車メーカー、金融機関の出資により2015年に設立、2018年には2号ファンドが組成され、知能化技術、ロボティクス、水素社会、電動化、新素材の5分野に投資してきました。2021年にはブラザーが出資する3号ファンドが始まり、カーボンニュートラルが新たな投資テーマに加わりました。ブラザーグループは「環境ビジョン2050」に基づき、2050年のカーボンニュートラル目標を掲げ、今回の出資を通じて脱炭素社会の実現と技術開発を推進します。
TCFD提言:リスク管理
気候変動や資源枯渇、環境汚染、生態系破壊といった社会的な重要課題をブラザーグループの事業上のリスクとして捉え、「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」にて長期的かつ継続的にその解決に取り組むことを明確にしています。
ブラザーグループでは、2022年度に気候変動対応を含むサステナビリティの推進とリスク管理を目的に、代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ委員会を設立し、重要な気候変動のリスクと機会を識別、評価し、適切な対応指示を行っています。サステナビリティ委員会の下部組織として設けられた気候変動対応分科会で、気候変動などの重要な問題を特定し、適切な対策を決定し、実行しています。さらに、気候変動対策としての野心的な目標を設定し、進捗状況を定期的にモニタリングしています。
TCFD提言:指標と目標
「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」のCO2排出削減では、2050年度までにあらゆる事業活動のカーボンニュートラルとバリューチェーン全体のCO2排出最小化を目指すことを掲げています。また、気候変動(地球温暖化)抑制の世界的枠組みである「パリ協定」と整合するマイルストーン「2030年度中期目標」を設定し、2030年度までにブラザーグループから排出するCO2(スコープ1・2)を2015年度比で65%削減、バリューチェーンの中でも特に排出量の多い製品の調達・使用・廃棄の各ステージで排出されるCO2(スコープ3のC1・11・12)を2022年度比で28.5%削減することを目標としています。
このCO2排出削減に関する「2030年度中期目標」は、国際的なイニシアチブ「Science Based Targets initiative(SBTi)」から、パリ協定の「1.5°C目標」達成のための科学的根拠に基づく削減目標として認定されています。
さらに「2030年度中期目標」達成に向けたマイルストーンとして「CS B2024」ならびに「ブラザーグループ中期環境行動計画2027」において2027年度までの短期目標を設定し、そこから単年度の目標に落とし込み、進捗と結果を気候変動対応分科会およびサステナビリティ委員会に報告しています。
課題 | 2030年度目標 | 2024年度目標 | 2024年度の進捗 | 達成度 |
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CO2排出削減 | [スコープ1・2] 2015年度比で65%削減する |
[スコープ1・2] 2015年度比で47%削減する |
2015年度比49.7%削減 | ◯ |
[スコープ3] C1・C11・C12* 2022年度比で28.5%削減する |
[スコープ3] 15万t*削減する施策を実施する |
[スコープ3] 2024年度目標に対して、17.7万t削減し、達成 (2030年度目標に対して2022年度比で、25.2%削減) |
◯ |
【凡例(評価)】 ◎:計画以上の進捗、◯:計画通りの進捗、△:計画に対し進捗遅れ、×:計画に対し進捗無し
- 購入した製品・サービス、販売した製品の使用、販売した製品の廃棄に関わるCO2排出量が削減対象。
CO2削減進捗
2030年度までの進捗
2030年までのCO2削減に向けて、事業所では太陽光パネルの設置や再生エネルギーの使用拡大などで数億円程度の投資を予定しており、製品では小型化や省エネルギー化、新規資源率の削減などへ数十億円規模の投資を予定しています。
Scope1・2・3の排出量の内訳および外部保証の結果はこちら
内部炭素価格:当社は、持続可能な社会の実現に向けた取り組みの一環として、2024年度よりインターナルカーボンプライシング(ICP)を導入いたしました。このICPは、国内における環境設備投資を対象とし、温室効果ガス排出に対する内部価格を設定するものです。具体的には、1トンのCO2排出に対して12,000円の内部価格を設定いたします。この価格を基に、環境負荷を考慮した投資判断を行い、事業活動に伴う温室効果ガス排出削減を推進します。