雇用・処遇に関する基本方針
多様な人財が能力を発揮できる制度・環境を整備
ブラザーグループは、40以上の国と地域に生産拠点や販売・サービス拠点を設け、世界中のお客様に製品やサービスをお届けしており、人種・言語・文化・習慣など、事業を取り巻く環境がさまざまに異なる中で、全従業員がグローバルチームブラザーの一員として、日々活躍しています。
その基盤となるのが「ブラザーグループ グローバル憲章」(以下、グローバル憲章)の「基本方針」に掲げた「従業員の多様性を重視し、さまざまな能力を発揮できる職場環境とチャレンジングな仕事への機会を提供する。そして努力と成果に対しては、公正な評価と正当な報酬で応える」という方針です。加えて、グローバル憲章の「行動規範」では「常に一人ひとりの人格、多様性を尊重し、信義と尊敬を持って行動する」ことを定めています。ブラザーグループはこのグローバル憲章に加えて、社会からの要請に応え企業としての責任を果たすため、「ブラザーグループ社会的責任に関する基本原則」(以下、基本原則)を制定しています。ブラザーグループ各社は、基本原則のもと採用・評価・昇進などにおいて、民族・国籍・宗教・思想・性差・学歴・年齢・障がいの有無など、あらゆる差別やハラスメントを許さず、その防止・排除に取り組むことを明記しています。また、「調達方針」と「CSR調達基準」の中で、児童労働や強制労働を禁止するとともに、雇用においては現地の最低賃金以上の給与を保障しています。さらに、労働条件、労働環境、賃金水準等の労使間協議を実現する手段として、従業員による団体の結成や従業員がその団体に加入する権利(団結権)を尊重します。併せて、団体交渉権を支持し、従業員との誠実な協議・対話を図ります。ブラザー工業株式会社(以下、ブラザー工業)の「ブラザー工業労働組合」とは労使間で労働協約が締結されていることに加え、労使懇談会や労働環境改善委員会など定期的に情報交換を行うことで、良好な労使関係を築いています。
今後も、経営層と従業員が一体となって、関連法規、規則を順守することはもちろん、各自の文化や慣習を尊重し、グローバル憲章や基本原則に基づいた人事制度の進化、職場環境の継続的な改善に取り組むことで、従業員エンゲージメント*の向上を図ります。
- 従業員と会社が相互に対等で、互いに価値を提供しあう関係のこと
公正な評価と処遇を目指した目標管理制度
ブラザーグループは、能力・成果を公平・公正に評価して処遇に反映するための体制を構築しています。例えばブラザー工業では、明確な評価基準に基づく目標管理制度のもと、納得性の高い評価を実施しています。評価の結果は被評価者に公開し、その後の面談においてその評価理由を伝えています。こうすることで、従業員が自らの仕事を振り返り、新たな目標に向かって成長していくためのモチベーションも高まるため、人財育成にもつながっています。
2024年度には、従業員が適切な目標設定を行い役割に合った成果を創出できるよう、目標設定に関する被評価者向けワークショップを開催し、約2,100人の従業員が参加しました。
ブラザー工業における評価制度の詳細は、下記をご覧ください。
自律的な働き方の推進
ブラザー工業は、自律的な働き方が可能な環境の中で、多様な人財がやりがいを持って活躍することで、お客様へ新しい価値を提供し続けられ、持続可能な社会の発展に貢献できると考えています。
ブラザー工業では、以下制度を導入しています。
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業務やライフスタイルに応じた自律的な働き方
- フレックスタイム
- 在宅勤務
- 社内公募
- 社内複業
- 副業・兼業
- 帯同社員の再雇用
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仕事と生活の両立支援
- 育児休職制度・短時間勤務制度
- 看護休暇制度
- 子の養育両立支援休暇
- ベビーシッター利用支援制度
- 不妊治療休職・休暇制度・短時間勤務制度
- 介護休職制度・休暇制度・短時間勤務制度
各制度の詳細は以下をご確認ください。
業務やライフスタイルに応じた自律的な働き方
フレックスタイム制度
ブラザー工業では、1995年にフレックスタイム制度を導入して以来、多様な働き方の基盤となる環境整備に努めてきました。2023年度には、自律的な働き方をさらに推進できるよう制度を拡充し、従来設けていた「コアタイム*」を廃止するとともに、始業後の一時的な中断・再開を可能にしました。本制度の導入によって、介護や育児のほか通院、イベントなど従業員が個々の事情に応じて就業時間を調整しやすくなり、より柔軟性の高い働き方が実現します。さらに、本制度と在宅勤務制度を組み合わせることも可能で、従業員の自律的な働き方を一層推進できると考えています。
- 従業員全員が必ず勤務しなければならない時間帯を指す
在宅勤務制度
ブラザー工業は、育児や介護などを行う従業員を対象とした在宅勤務制度を2015年度に導入しました。その後、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、対象となる従業員を拡大させたことで、在宅勤務が定着しました。新型コロナウイルス感染症の制限が緩和された2023年度以降も本制度を継続しており、在宅勤務と出社を組み合わせることで、従業員がより柔軟に働くことが可能となっています。
社内公募制度
ブラザー工業では、従業員自らの意志で部門異動にチャレンジする「社内公募制度」を2004年から導入しています。本制度は、部門の重点業務に対して人財の最適配置を促進するとともに、従業員が自律的にキャリアを選択できる機会をつくることを目的としています。
社内複業制度
ブラザー工業は、2023年度から社内複業制度を導入しました。この制度は、所属している現部門の仕事をしながら、就業時間のうち20%までを目安に一定期間、他部門の業務を行うことができる制度です。2024年度までに約30人の従業員が本制度を利用しました。
さらなる事業の成長を目指した戦略の立案や製造データを活用したDXの推進などに対して、さまざまな部門から募集があり、複数の部門で複業人財が活躍しています。複業を受け入れた部門からは、「自部門には無い知見を得ることができ、業務が加速した」「本人のモチベーションと部門の需要が、非常に高くマッチングした」などの声がありました。また、利用者からは「普段の業務と異なる視点で物事を考えることができ、視野が広がった」「新たなスキルや価値観を発見できた」といった前向きな意見が多く寄せられています。今後も本制度を通じて、さまざまな経験、視点、価値観などの多様性の受容により、個人と組織それぞれの成長を促していきます。
副業・兼業
近年の働き方の多様化を受け、ブラザー工業では2021年度から、副業や兼業を一定の条件のもとで認めています。従業員が、社外での新たな挑戦を通じて、会社の枠を超えてスキルや経験を習得できるように、働き方の選択肢を増やしています。
帯同社員再雇用制度
ブラザー工業は、2012年度から「帯同社員再雇用制度」を設けています。帯同社員再雇用制度とは、配偶者が海外赴任や国内転勤となった際にやむを得ず退職した従業員に対し、自身のキャリアを生かして職場復帰できるよう、再雇用する制度です。2023年度には、制度を改定し、社内の配偶者に加えて社外の配偶者の海外赴任に帯同する場合も再雇用の手続きが可能となりました。この制度のもと、従業員が長期的に会社で活躍し続けられる環境を整えています。
仕事と生活の両立支援
ブラザー工業は、従業員が育児、介護、治療など生活と仕事を両立しながら、能力を最大限に発揮できる職場環境を提供するための各種制度を整備しています。
男性の育児休業取得促進への取り組み
ブラザー工業では2025年度に、男性による2週間以上の育児休業(以下、育休)取得率を60%以上、合計4週間以上の育休取得率を30%以上にすることを目標に掲げています。この目標達成に向けて、男性の仕事と育児の両立をテーマに、育休取得経験のある従業員との座談会「キャリアコミュニティ」を2018年度から2021年度まで開催し、計61人が参加しました。
2022年度には、「育児介護休業法」の改定を周知するため、e-ラーニングを全従業員へ展開しました。また、2024年度には、男性の育休取得者を対象にアンケート調査を実施し、育休取得に関する実態把握を行い、社内に結果を公開しました。調査の結果、育休を取得した男性従業員からは「子どもと多くの時間を過ごすことができた」「パートナーの産後の負担を軽減できた」「育休取得が、担当業務の最適化や自動化のきっかけとなった」など育休取得に対する肯定的な意見が多く集まりました。
男性育休取得率の推移(ブラザー工業株式会社)
育休制度利用者の声
~育休がもたらした家族との貴重な時間~
ブラザー工業株式会社 P&S事業 IDS開発部
大野 泰生
第1子誕生をきっかけに、育休を3回に分けて、合計で約3カ月取得しました。休暇を取る前は、進行中のプロジェクトなどに対する不安がありましたが、上司から「子どもが小さいうちは一瞬。仕事は心配せず、今しかない期間にしっかりと子どもと触れ合ってほしい。」と言っていただき、同僚からも積極的な支援があったおかげで、育休に対する不安が解消されました。また、育休取得にあたっての業務引き継ぎを通じて、業務の可視化や無駄の洗い出しによる効率化も実現できました。
育休期間は、子どもの笑顔や手足の動きなど、日々の成長を間近で見守ることができ、非常に貴重な時間となりました。また、育休の分割取得によって、家庭の事情や職場の状況に応じて育休時期を柔軟に調整できたと感じています。
今後、職場での育休取得者がさらに増えるよう、自身の育休経験を周囲に積極的に伝え、育休を検討するメンバーをサポートしていきたいと思います。
ベビーシッター利用支援制度
ブラザー工業は、仕事と育児の両立支援のため、2023年度にベビーシッター利用支援制度*を導入しました。本制度は、子育てをする従業員を対象に、ベビーシッターサービス利用料金の割引券を支給するものです。就業のためにベビーシッターを利用した際に割引を受けることができ、2024年は、男性・女性従業員あわせて97枚の割引券の利用がありました。
- こども家庭庁の企業主導型ベビーシッター派遣事業を利用
不妊治療休職・休暇制度
ブラザー工業は、従業員がライフステージにおいて問題に直面しても、引き続き活躍できるよう、各種制度を整えています。その一環として、2024年度から、不妊治療休職・休暇制度を導入しました。本制度では、不妊治療をする男性・女性従業員を対象に、年10日の休暇と、最長1年6カ月の休職を可能としています。
介護の理解促進プログラム
ブラザー工業では、仕事と介護の両立支援を目的に、2011年度から介護セミナーを実施しています。本セミナーでは、従業員が介護に対する理解を深め、介護に直面した際にも離職せずに働き続けられるよう、社内の制度や介護保険のしくみを紹介しています。また、2016年度からは、介護を担っている部下を支援する職場環境づくりのため、上級職(管理職)を対象に、仕事と介護の両立ができる職場づくりを学ぶセミナーも開催しています。2024年度は、延べ183人の上級職・一般従業員がセミナーに参加しました。
仕事と生活の両立を支援するための各制度利用者データ(ブラザー工業)
上記制度の利用者数など詳細は、以下をご確認ください。
長時間労働の削減
ブラザー工業は、長時間労働を削減するという方針のもと、制度の構築とともに業務の効率化を図っています。
制度改定による推進
残業の事前申請制度
2016年7月に、20時以降の残業は申請制、22時以降の残業は原則禁止としました。さらに、業務の効率化など、長時間労働を減らす取り組みをしています。
間接部門における36協定上限時間の引き下げ
労働組合との合意に基づき、2020年度までに法定外労働時間を順次引き下げ、引き続き維持しています。
2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | |
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月間 | 65時間 | ||||
年間 | 450時間 |
業務の効率化
ブラザー工業では、2018年に業務効率化プロジェクトを立ち上げ、業務プロセスの見直しとデジタルツールの活用など、業務効率化を進めています。
業務プロセスの見直しとデジタルツールの活用
社内会議運営や会議資料の作成、メール対応などの課題と、解決するための具体策や各部門での取り組み事例を、イントラネットで従業員に共有しています。また、ITを活用することによって、定型業務の自動化・効率化を全社的に推進しています。
また、AI(人工知能)に関する社内研修については、全従業員を対象にしたものに加え、新入社員、ソフト開発者、マネジメント層など、職種やニーズに合わせた独自のカリキュラムを展開しています。2024年度までに、計700人の従業員がAI社内研修を受講しており、AIに関するe-ラーニングも実施しています。
AIに関する人財育成の詳細は、以下をご覧ください。
BPMN・RPAの活用推進
国際基準規格の業務プロセス図表記法である、BPMN(Business Process Model and Notation)の活用を推進しています。BPMNとは、仕事の始め方、役割分担、各担当の仕事内容、関係者とのやり取りなど業務プロセスを分かりやすく表記できる方法です。BPMNに従って業務プロセスを可視化し、関係者全員で業務プロセスを見直すことで、現状の把握・課題発見を効率的に行うことができ、業務改善が促進されます。
ブラザー工業では、業務改善を促進するため、BPMNを活用できる人財を育成しており、e-ラーニングや解説動画の配信、BPMN作成実技指導を行っています。営業や開発などさまざまな職種の従業員がBPMNのスキルを獲得することで、多角的な視点から業務プロセスの改善を検討することができ、効率化につながっています。また、BPMNの活用はグローバルにも広がっており、中国におけるマシナリー事業の販売会社である兄弟機械商業(上海)有限公司では、2023年12月、全従業員にあたる143人がBPMNの読解能力を取得しました。さらに、BPMNを用いた業務プロセスの見直しにより、重複作業や無駄を洗い出し、2023年度には、15件の業務改革を達成、年間1,873時間の削減を実現しました。BPMN活用の取り組みは、2024年度も継続しており、今後もグローバルでの業務改善を進めていきます。
加えて、AIを備えたソフトウエアのロボット技術により、定型業務を自動化・効率化するRPA(Robotic Process Automation)を学ぶ環境も充実しています。ブラザー工業では、RPAに関する独自の社内研修が多数開催され、社内研修を受講した従業員が自主的に講師となって講習を行う事例もあります。ほかにも、RPA技術質問コーナーをチャットツール内に設置し、従業員同士が活発な意見交換をしています。チャットツールを活用することで、質問や回答がしやすくなったことに加え、他部門の従業員と交流の場にもなり、RPA活用の輪が広がりました。
「業務報告ツール」の活用による業務時間の削減
業務効率化事例として従業員が開発した「業務報告ツール」が、業務時間の削減に大きな効果をもたらしています。「業務報告ツール」とは、従来メールで行っていた「業務を開始します」「業務を終了します」「本日は○○を行いました」といった業務報告を、ボタン1つで簡単にチャットツールに送信、関係者へ報告できるものです。在宅勤務の普及により業務報告の機会が増える中、ツールの導入により、導入初年度にあたる2021年度は年間約 12,000 時間(全社合計)*1の削減に成功しました。また、ツールを利用する従業員は年々増加しており、1,500人以上の従業員が日々このツールを活用しています。
社内ChatGPTの活用
ブラザー工業では、業務効率化や業務改革の促進に向けて、社内向けChatGPT「LangAccel」を2023年7月に構築しました。
LangAccelは、文章の要約やひな形の作成など、主に文章に関する用途で使用でき、文章の作成や内容理解にかかる時間の短縮が可能です。このような、言語(Language)に関するさまざまなタスクを加速(Accel)させることができるというシステム上の特性から、LangAccelと名付けました。
利用にあたっては、社内専用のChatGPTであることから情報漏えいなどのリスクを防ぐとともに、誤った情報が提示される可能性についてもイントラネット上で説明するなど、従業員が安全に活用できる環境を整備しています。また、初期の一問一答型からチャット型への変更や、イントラサイトなど社内情報との連携、回答速度の向上など適宜バージョンアップを行っており、社内での活用促進に向けてさらなる利便性の向上を図っています。
2024年度には、LangAccelの派生ツールとして、「TransAccel」と「PrepAccel」の2種を新たに構築しました。
TransAccelとは、レイアウトやファイル形式を維持したまま翻訳処理を行うことができるツールです。従来ツールのLangAccelでは、翻訳したい内容のコピー&ペーストが必要でしたが、TransAccelではファイルのまま翻訳の実行ができるため、翻訳にかかる時間をより短縮することができます。
PrepAccelは、Excelの特定列に対して一括で処理ができるツールです。本ツールを活用することで、例えば、アンケート回答の整理や翻訳、要約、分類など従来手作業で行っていた作業を自動化でき、テキストをデータとして活用するための前処理負荷を大幅に軽減します。
今後も、AI技術の進歩に合わせてバージョンアップや新規ツール開発などを行い、業務効率化や業務改革を進めていきます。
「業務効率化ツールコンテスト」開催
ブラザーグループでは、業務効率化を促進する取り組みとして、2020年度からオンラインで「業務効率化ツールコンテスト」を開催しています。このコンテストは、従業員がRPAなどを用いて作成した自動化ツールとその実績を発表する場で、発表内容に対する従業員からの「いいね」の数で1位から3位を選出します。また、社長自らが選出する社長賞、RPAやプログラミングの勉強を始めたばかりの従業員を対象とした新人賞など、さまざまな表彰を行っています。2024年度は、海外拠点からの参加者を含めた53組がコンテストに出展しました。LangAccelを活用して作成されたツールや、ローコード/ノーコードツール*2を活用したツールが出展されるなど、その内容も年々進化しています。
また、コンテストと並行して、関連するセミナーやイベントを開催しています。2024年度は、外部からエンジニアやバーチャルユーチューバー(Vtuber)を講師として招き、データの活用や重要性を解説するセミナーを開催しました。さらに、業務効率化の成功事例を紹介するイベントも実施され、コンテストには約1,000人、投票には334人の従業員が参加しました。
出展した従業員からは、「今後も誰かの役に立てるような業務効率化ツールを作りたい。」という声があがりました。参加者からは、「業務を自動化して、効率化を実現したい。」「自動化をしたら、自分が成長できると感じた。」という感想があり、ブラザーグループ全体で、業務効率化意識やスキルの向上に結び付く有意義な場となりました。
- 業務報告ツールを利用して削減できた時間の計算式: 報告回数x 40秒(1回の業務報告あたり、40秒の削減時間があると想定) / 3,600
- プログラミングの際に使用する、コンピューターへの指示を記述する「ソースコード」を書くことなく、あるいは記述量を抑えてアプリケーションやシステムを開発することができるテクノロジーを指す