サステナビリティ

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機関投資家×社外取締役座談会

サステナビリティ

ブラザーグループビジョン「At your side 2030」の達成とさらなる企業価値向上に向けて

座談会集合写真

「At your side 2030」からバックキャストで立案した中期戦略「CS B2024」を遂行し、ビジョンを実現するためには、社外取締役による経営への助言と監督が極めて重要です。資本市場とのエンゲージメントを深めるため、野村アセットマネジメントの磯 光裕氏と社外取締役5名がブラザーの企業価値向上について意見交換を行いました。

磯 光裕:生命保険会社を経て、2003年に野村アセットマネジメント株式会社入社。
バイサイド・アナリストとして、電機セクター(電子部品、民生電機、精密・事務機等)を20年間担当。2022年から部長職を兼務。

野村アセットマネジメント:1959年に設立された日本最大級の資産運用会社、国内の個人投資家から海外の公的年金などの機関投資家まで幅広いお客様に資産運用サービスを提供。ESGを含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)を、「投資の好循環(インベストメント・チェーン)」を支える重要な経営課題の一つであると認識し、投資先企業にサステナビリティを重視した経営を求めるとともに、同社においてもサステナビリティを重視した事業経営を推進。

中期戦略

「CS B2024」で示された戦略テーマに対する成果と課題

磯:

野村アセットマネジメントでは、運用における責任投資の基本方針を定めており、投資先企業に対して当社が考える「望ましい経営のあり方」を実現していただくよう働きかけを行っています。ブラザーグループの企業価値の向上と持続的成長を実現するためにどのように経営をモニタリングされているか、皆さまのお考えをお聞かせください。最初に、「CS B2024」で示された戦略テーマについて、産業用領域の強化とプリンティング領域のビジネスモデル変革、それぞれの進捗と課題を教えてください。

竹内:

プリンティング領域における安定的な収益確保と産業機器事業とドミノ事業の拡大という3つの柱が着実に進化していると言えると思います。一方、新規事業の育成にも力を注いでいるところですが、自社技術だけにこだわると時間が掛かるうえに小粒になりがちなので、外部の新しい技術も取り込んで事業規模を大きくしていくように努力することが重要ですね。この件は取締役会でも活発に議論しています。

白井:

今回の中期戦略はビジョン達成に向けてバックキャストして策定されており、過去の延長線上の発想によるこれまでの中期戦略に比べてよりチャレンジングな内容になっています。中期戦略は折り返し地点ですが、これから達成しなければいけない課題は多くあると感じています。私が注目しているのは、人事ポリシーの策定と新たな人事制度の導入を行ったことです。チャレンジの重要性が強調されており、成果に応じた報酬制度が盛り込まれています。ビジョン達成に向けて行動変容を促す基盤はできつつあるので、しっかり根づかせることが重要です。

内田和成

内田:

コロナ渦の影響で消費行動や事業環境が大きく変わったことをしっかり分析し、ビジョンの達成に向けて事業ポートフォリオの変革とP&S事業のビジネスモデル変革を着実に進展させることがやはり重要です。事業ポートフォリオの変革については、P&S事業が収益の大半をあげている状態から産業用領域への拡大を強化すること。P&S事業のビジネスモデル変革については、モノ売りからソフトやネットワークを主体とした業態への転換はまだ道半ばですね。工作機械などの産業機器はどうしても景気変動の影響を受けるので、ドミノ事業を中心とした産業用印刷の領域でソフトやサービスで収益をあげるビジネスへの変革を進めてもらいたいです。

日髙:

ビジョン策定における課題意識は、紙への印刷需要の縮小を見越して、事業ポートフォリオを変革し、どのように成長するかということでした。産業機器では省エネ性能に優れた「SPEEDIO」の新シリーズの投入など、開発力には目を見張るものがあります。足元では中国経済の減速もあり逆風を受けていますが、インドなどの成長市場では着々と手を打っており、目指すべき方向に着実に前進しています。P&S事業におけるビジネスモデル変革については試行錯誤の段階ですが、オフィスのデジタル化の先に求められることを構想して、必要に応じてスタートアップや新興勢力と手を組むことも検討したらどうかと助言しています。

宮木:

ソフトウエアファーストとか脱モノづくりといった風潮がありますが、モノづくりへの回帰も始まっています。ハードウエアからさまざまな情報を吸い上げて新たな価値を創出するためには、やはりハードウエアの優位性が求められます。ブラザーでも高い技術を生かしたモノづくりを大切にしてほしいと考えています。紙への印刷需要が減少する中、ガーメントプリンターをはじめとした産業用印刷は競争力があり成長が期待できます。工作機械も小型、高速、省エネの技術がSPEEDIOシリーズに結実しており、高い生産性や省エネ性能が求められる時流に合っています。中国以外にも世界中の製造工場にビジネスチャンスが広がりつつあり、そこでの販売を強化していきたいですね。

宮木正彦

磯:

就任されて2年がたちましたが、ブラザーの技術陣との対話を通じて気づかれたことはありますか?

宮木:

この1年間に多くのモノづくりの現場を視察しましたが、生産技術や生産効率がとても高いと感心しました。モノづくりの巧みさは際立っていますね。生産技術や生産効率の優位性はとても重要ですが、さらなる飛躍のためには、熱量のあるとがった技術者がどんどん出てきて、新しいものを生み出してくれることに期待します。

企業価値の向上に向けて

株価・資本政策についての取締役会の認識

磯:

2018年以降、業績・株価ともに横ばい圏で推移しており、企業価値が向上しているとは言い切れません。中期戦略で示されているROE目標も10%以上と現状維持なので、投資家としてはもっと高い水準を目指してほしいと考えています。企業価値や株価について、取締役会では、どのように認識されているのでしょうか?

磯光裕

竹内:

業績が堅調にも関わらず、株価に反映されていないという問題意識は持っています。新たなチャレンジをしているものの、対外的な説明が不足しているのか自己アピールが少ないことも要因の一つだと思います。事業ポートフォリオの変革による成果も含めて、投資家をはじめステークホルダーの皆さまの理解を得る努力を続けなければなりません。また新規事業への取り組みに対するスピード感をもっと上げる必要があるでしょう。先ほども触れましたが、自前の技術でできることを考えるだけではなく、事業を大きく構想して必要な技術や人財は外部から獲得するという決断も必要だと思います。P&S事業の変革、産業機器事業や産業用印刷領域の拡充、これらの柱に続く新規事業の育成、こうした成長ストーリーがもっと理解されると企業価値向上が明確に見えてくると考えています。

日髙直輝

日髙:

事務機器市場の将来に対する不安要素が株価に反映されている部分もあるだろうと思います。そこを脱却するために懸命に取り組んでいるB to Bへの転換が数字に表れてきたら投資家の評価は変わると思います。また、P&S事業に関しても、ソリューションの提供などについてもっと夢を持って語ることも必要だと思います。目指したい姿が見えないと投資家の関心や評価は得られないでしょう。事業別に投下資本に対する収益性を把握したうえで事業特性に応じた経営判断が必要だとの認識は浸透してきたので、取締役会で資本コストと事業リターンについて透明度の高い議論をしたいと思っています。あとは株主還元政策も重要ですね。「CS B2024」でも、安定的な配当と機動的な自社株買いを組み合わせた株主還元を掲げていますが、投資家から見てブラザーの還元政策をどう評価されますか?

磯:

大きな金額のキャッシュが毎年積み上がっているので成長投資に使っていただいて、M&Aを含めた成長投資ができない場合は、株主に還元されることを望みます。企業によっては、一定額以上のキャッシュ水準を上回ったらすべて株主に還元することを公約されているところもあります。過剰な資本が積み上がって資本効率が低下すると企業価値にも影響します。

M&Aの成功と未来への先行投資

磯:

中期戦略の方針の一つであるM&Aについてお聞きします。過去のブラザーのM&Aをどう評価されていますか?また中期戦略で示された「未来に向けた先行投資」はどのような投資でしょうか?

日髙:

商社や投資ファンドのM&AとメーカーであるブラザーのM&Aでは性格が異なると思います。私は商社の出身ですが、商社ではIRR(内部収益率)やROIC(投下資本利益率)など指標を用いるなどしてリターンをしっかり刈り取ることが大切だと認識しています。ブラザーのようなメーカーについては、グループ戦略と成長ストーリーに沿ってM&Aを実行していく必要があります。ドミノ*1の買収やニッセイ*2の完全子会社化については、産業用領域への拡充において必要不可欠だったと考えています。PMIの実行については課題もありましたが、今後のM&Aではこの経験が生きると思います。未来に向けた先行投資については、産業用領域のさらなる飛躍、プリンティング領域の変容、未来の事業ポートフォリオに向けた新規事業の創出において、M&Aやベンチャー投資を通じた外部の技術や人財の活用を一層強化する必要があると思っています。

  1. 英国にある産業用プリンティング企業のドミノプリンティングサイエンス
  2. 株式会社ニッセイ
白井:

ドミノ事業が収益化するまで時間がかかりすぎだとの評価もありますが、その苦労の過程でブラザーが獲得した新たな技術やブラザーの従業員の成長は大きな財産になっていると思いますね。今後、さらなる成果が期待できます。

サステナビリティを重視した経営

磯:

ビジョン達成に向けて特定したマテリアリティの一つとしてCO2排出削減に取り組まれていますが、進捗と課題を教えてください。

宮木:

ブラザーの自助努力によるスコープ1・2については、CO2排出削減目標に対して順調に進捗しています。スコープ1・2の排出量は3つのスコープ全体の排出量の1割以下なので、スコープ3の排出削減にも注力しており、原材料調達や運搬など自助努力で削減できるところから着実に取り組んでいます。ブラザーの製品使用によるCO2排出削減については、製品の環境性能、特に省エネ性能を一段と高めて対応していきます。GHG排出による気候変動への影響を疑う余地はないので、人類は英知を結集してあらゆる対策を早急に講じる必要があります。ブラザーには、自社の削減努力にとどまらず、地域経済のリーダーとして、気候変動問題に対して世論を喚起するよう積極的な発信と活動を期待したいですね。

磯:

マテリアリティの「多様な人々が活躍できる社会の実現」の中で、管理職の健全なジェンダーバランスに向けたパイプラインの強化と多様な働き方を実現する環境整備が目標とされていますが、進捗と課題をどのように認識されていますか?

白井文

白井:

女性管理職比率と男性社員の育休取得率についての数値目標に対しては順調に進捗しています。ブラザー工業の執行役員やグループ企業の社長に女性が登用され、女性が意思決定プロセスに参加する機会は少しずつ増えています。女性の社外監査役も選任され、取締役会でも女性役員比率は上がっていますが、意思決定プロセスにおけるジェンダーの多様性はまだ途上で、数値目標も実現可能な水準にとどまっています。海外のグループ企業の女性管理職比率は3~4割の水準に達しており、国内では採用の方法も含めて見直すべき点も多いと思います。多様性の進展において日本の製造業を率先して引っ張るという気概を持って大胆に取り組んでいただきたいです。

ガバナンス

経営人財、AI・DX人財の育成と活用

磯:

佐々木社長が2018年に就任された際、人財育成とAI・DXを推進すると述べられており、当時としては斬新な方針であったと記憶しています。これらの取り組みの成果と課題をどのように見ていますか?

内田:

経営人財の育成については、経営人財をプールして段階的にアセスメントを実施しているという点は進んでいます。OJTで人財を育成していくシステムはとてもしっかりしており、これをベースにOFF-JTのトレーニングと段階的な人財アセスメントを有機的に融合させたダイナミックな人財育成メカニズムの構築ができるとさらに良いと思います。一方で、特にAI・DXについては外部人財の獲得が必要ではないかと感じています。P&S事業のビジネスモデル変革にはAI・DXの活用が必須なので、足りないリソースは外部からの招聘も選択肢の一つですね。

経営トップに求められる資質・要件

磯:

指名委員会では経営トップサクセションについて議論されていると推測しますが、経営トップに求められる資質や要件をどのようにお考えでしょうか?

竹内:

私は、経営者としては使命感とかリーダーシップなどの一般的に言われている資質・能力を持っていることは当然のこととして、最も重要なことは、新しいことに挑戦する意欲だと考えています。攻めの経営センスと言い換えることができますね。もう一つは、人を見る目を持っているかどうかです。組織を構築するにせよ、ともに仕事を進めていくにせよ、関係する人は重要でありその人をよく理解していなければなりません。では、関係する人の資質・能力を見抜く力はどうしたら身に付くのか、それはやはり多くの人を引きつける力を備えている人財こそが多くの人と接する中で、培われていくものだと思っています。このようなことも考えながら、後継者候補人財に対する育成プログラムでは、外部の研修や合宿を通じて多くの人と接する機会をつくってもらっています。加えて、強く元気で明るいことも重要な資質だと考えています。

竹内敬介

磯:

ブラザーは"At your side."という言葉がとてもぴったりな会社だと感じています。お客様にしっかり寄り添って求められるニーズを掘り起こし、それをうまくビジネスにしていく、その結果として高い利益率を達成していることは優れた企業カルチャーがあるからであり、それを今後も大事にしていただきたいです。一方で、今のブラザーはこれまでのステージとは違う局面に立っているとも考えています。既存の事業を一生懸命に深化させてきた段階から、財務戦略や資本政策に力点を置いてM&Aを含めて成長投資を大胆に推し進めていくステージに入っているのではないでしょうか。そうした積極的な姿勢が評価されると株価のバリュエーションに変化が起きると思います。取締役会で議論を深めていただくことを期待しています。

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