“At your side.” Stories

サムネイル:スポットクーラー記事 取材対象者集合写真

2026.9.17

現場の課題に応える。
ブラザー初の挑戦から生まれたスポットクーラー「PureDrive」を世界へ

Pick Up !
  • 独自の気化冷却技術「TwinAqua」で、排気熱風レス・フロンレスを実現
  • 顕在化していなかった現場のニーズを掘り起こし、ソリューションを提示
  • 日本から欧州、そしてアメリカへ。空調事業の拡大にグループで挑む
目次
  1. 1.現場の声で掘り起こされた「排気熱風レス」という新たなニーズ
  2. 2.未知の領域に挑み、6年間で4機種を立ち上げた開発の軌跡
  3. 3.新たな価値をいかに伝えるか――市場の認識を変えた営業活動
  4. 4.グループの総合力で挑む、日本発PureDriveの世界展開
  • 飯島 竜太 プロフィール写真
    飯島 竜太
    ブラザー工業株式会社 新規事業推進部 グループ・マネジャー
    空調事業全体の推進とマネジメントを担当。
  • 吉田 茂樹 プロフィール写真
    吉田 茂樹
    ブラザー工業株式会社 新規事業推進部 チーム・マネジャー
    スポットクーラー立ち上げのプロジェクトリーダーとして初代モデルから派生モデルまで担当。
  • 市橋 昌志 プロフィール写真
    市橋 昌志
    ブラザー工業株式会社 新規事業推進部
    スポットクーラーの立ち上げを担当。
  • 尾出 康人 プロフィール写真
    尾出 康人
    ブラザー工業株式会社 新規事業推進部
    最新モデル「PD-7105」のプロジェクトリーダー
  • 川越 政子 プロフィール写真
    川越 政子
    ブラザー工業株式会社 新規事業推進部
    「PD-7105」の企画、開発を担当。
  • 成田 圭亮 プロフィール写真
    成田 圭亮
    株式会社ブラザーエンタープライズ 営業部
    スポットクーラーの販路開拓、営業を担当。現在はアミューズメント関連機器の販売を担当。
  • 春日 久徳 プロフィール写真
    春日 久徳
    株式会社ブラザーエンタープライズ 営業部
    スポットクーラーの販路開拓、営業とサービスサポートを担当。現在はフォークリフトモデルの販売を担当。
  • 中川 瑠美 プロフィール写真
    中川 瑠美
    ブラザー販売株式会社 ビジネスソリューション営業部
    日本国内向けの据置型モデルの販売を担当。

ブラザーグループは、社会課題の解決に向けて、新たな事業領域の開拓に挑み続けています。なかでも近年、新規事業として注力しているものの一つが空調・空清の領域です。
2020年に発売したスポットクーラー「PureDrive(ピュアドライブ)」は、その第一弾となる製品です。お客様へのヒアリングを重ねながら独自の冷却技術を磨き、省エネ性とフロンレス※1、さらには排気熱風レス※2を実現しました。空調という未知の領域に踏み込んだ6年間――開発から市場への浸透、そして海外展開へと続く挑戦の日々を、開発と販売の当事者たちに聞きました。

  1. ※1フロンレスとは、温室効果ガス(GHG)の一種で、二酸化炭素よりも1重量当たりの温室効果が極めて高いフロンを、冷媒として使用しないことを指します。
  2. ※2排気熱風レスとは、排出される排気の乾球温度が外気温より低くなることを指します。

1.現場の声で掘り起こされた「排気熱風レス」という新たなニーズ

PureDriveの開発から始まったブラザーの空調事業は、人々が生活と働く現場の環境改善に寄与しています。

  • 飯島さん:
    私がグループ・マネジャーを務める新規事業部技術推進グループでは、空調以外にも複数の研究プロジェクトがありますが、多くは社会課題の解決に貢献する新規テーマを常に探索しています。プロジェクト化するうえでは、事業成長と社会貢献の両立を目指していることが重要となります。
飯島さんのインタビュー写真
  • 吉田さん:
    そこで着目したのが、産業での消費エネルギーのなかで割合が大きい「空調機器の省エネ化」です。なかでも、設備ではなく製品として提供できるスポットクーラーなら、ブラザーが世界中に持つ販売網や海外工場を活用し、製造業や物流業、商業施設などさまざまなお客様に価値を届けられるのではないかと考えました。
吉田さんのインタビュー写真
  • 市橋さん:
    私は、開発から製品化までを円滑に進め、いち早く市場へ届けるために、このプロジェクトに初期から関わってきました。開発段階では、消費電力が低い、風量を多段階で調節できる、必要な場所に手軽に移動できる、といった現場の課題に応えるさまざまなメリット(価値)を想定して試作機をつくりました。新たな試作機ができればお客様のもとへ持っていき、ヒアリングをする。その繰り返しでした。あるお客様に伺った時、そのお客様は、冷風を感じるより真っ先に排気口に手をかざして、「排気の熱さ」を確かめられました。
  • 飯島さん:
    一般的なヒートポンプ式のスポットクーラーの場合、排気口からの熱風※3が周囲の温度を上げ、現場をかえって暑くするというジレンマがあったと、その時初めて知りました。誰もが「排気が熱い」と感じていても、それが当たり前で、解決する製品があるとは思われておらず、「排気熱風が少ないスポットクーラーがほしい」という形ではニーズが顕在化していなかったのです。その眠っていたニーズを、私たちは、試作機を通じたヒアリングで掘り起こすことができました。
  1. ※3熱い排気、熱風とは、乾球温度が外気温より高い排気を指します。

2.未知の領域に挑み、6年間で4機種を立ち上げた開発の軌跡

PureDriveで「排気熱風レス」を実現できた理由は、独自の冷却技術「TwinAqua(ツインアクア)」にあります。TwinAquaは、水が蒸発する時に周囲から熱を奪う「気化熱」を利用して空気を冷やす、気化冷却式の技術です。ヒートポンプ式のように熱を別の場所へ逃がす仕組みではないため、排気熱風を出さず、周囲の温度を上げにくいことが特長です。さらに、熱交換器とエレメントの2段階で冷やす構造により、エレメントだけで冷やす一般的な冷風扇よりも高い冷却性能を備えています。
こうした仕組みにより、消費電力はヒートポンプ式の約1/4に抑えられており、電力使用に伴うCO2排出量の削減にも貢献します。加えて、フロンレスも実現しました。

TwinAquaの仕組みを説明する図
  • 飯島さん:
    空調のノウハウがブラザーに最初からあったわけではありませんが、この未知の領域に挑むために、30年ほど前にも同様の環境配慮型製品の開発に取り組んだ前例がブラザーにあったのです。そのOBの技術者からも情報を入手して、開発を進めていきました。
  • 吉田さん:
    最大の焦点は、省エネ性を高めながらもしっかり冷やす性能をどう両立させるか。追求するなかでたどり着いたのが、気化冷却式でした。気化冷却式を選んだからこそ、開発当初からPureDriveの価値の一つになるとにらんでいた風量にもこだわることができました。PureDriveの風量は、一般的なスポットエアコンと比べて約1.8倍とパワフルです。省エネで冷やせる分、削減できたエネルギーをファンに回し、より強い風を生み出すことができました。
    さらに1cmでも10cmでも遠くまで強い風を届けるため、吹き出し口の形状ごとの違いをシミュレーションで検証し、計算と実験を繰り返しました。しかし「風速何メートル」という数字だけでは、お客様の納得は得られません。社内のさまざまなメンバーに風を体感してもらったうえで、お客様のもとにも吹き出し口の形状を変えたタイプを何種類も持ち込み、試していただきました。声を聞いては改良し、改良しては聞きに行く。このサイクルを、市橋さんと一緒に繰り返しましたね。
  • 市橋さん:
    よく覚えています。2号機の開発では、吹き出し口が広く、より広範囲に風を届けられるワイドタイプと、狙った場所に風を集中的に届けられるスポットタイプを切り替えられる試作機をつくり、お客様の声を聞きに行きました。すると使用環境によって評価がかなり分かれました。実際に現場で試してもらって初めて気づくことも多いと実感しました。
    大型のレンタカーに試作機を積み込み、吉田さんと二人で東海三県のお客様を何十社と訪ねたこともありました。お客様先からの帰り道、いただいた声を振り返り「ここはお客様に刺さらなかったから改善しようか」「次はこうしてみたらどうだろうか」と反省会をしたことも、今となっては良い思い出です。
市橋さんのインタビュー写真
  • 飯島さん:
    現場の声を聞き、開発に活かす取り組みは今も続いています。既存のスポットクーラーからの置き換えを進めるなかでは、「PureDriveは設置面積が大きく、今までスポットクーラーを設置していた場所に入らない」という声をいただきました。そこで据置型の新モデル「PD-7100」シリーズでは本体をコンパクト化し、設置面積を約33%削減しました。
  • 市橋さん:
    初代PureDriveを2020年に発売して以降、翌2021年にはフォークリフトに搭載できる「PureDrive-FL」を、2023年には牽引車にも搭載できるよりコンパクトな「PD-3100」シリーズを発表し、2025年に「PD-7100」シリーズも加わりました。2020年から足かけ6年で4機種を立ち上げたことになります。まさにチーム一丸となって走り抜けた6年間でした。
「PureDrive-FL」と「PD-3100」の外観と搭載イメージ
※左から、「PureDrive-FL」、「PD-3100」
据置型モデル「PD-7100F/PD-7100S」と「PD-7105」
※左から、「PD-7100F/PD-7100S」、「PD-7105」

3.新たな価値をいかに伝えるか――市場の認識を変えた営業活動

PureDriveの開発はブラザー工業が、販売・マーケティングはブラザーエンタープライズが担ってきました。ブラザー工業が持つ解析やシミュレーションの技術力と、ブラザーエンタープライズが営業・販売で発揮するスピード感を掛け合わせ、開発と市場展開を同時に加速させていったのです。

  • 成田さん:
    私はブラザーエンタープライズで、初代モデルのサポートや営業を担当しました。当初は、製品はおろか空調に関する知識もなく、最初の1か月間はひたすら勉強の日々でした。しかもPureDriveは、従来の冷風扇の仕組みと違い、2段階気化冷却技術を採用した業務用スポットクーラーという、世の中になかった製品です。新しい価値をお客様にどう伝えるか、営業としてもチャレンジングな案件でした。
    排気熱風レス、省エネ、大風量――いくつもある特徴のうち、どこに価値を感じていただけるかは、お客様や使用シーンによって異なります。開発の吉田さんや市橋さんにも相談して私が行き着いたのは、お客様の課題に寄り添う営業スタイルでした。「現状の課題は何ですか」「PureDriveはきっと御社の課題解決に役立ちます」。そんなやりとりのなかで、お客様の理解が深まっていったように思います。
成田さんのインタビュー写真
  • 春日さん:
    私も成田さんと同様に、新しい製品を市場に浸透させる難しさに直面しました。私がPureDriveの営業やサポートを本格的に担当し始めた2022年当時、市場にはすでに競合製品が存在していました。PureDriveはブラザー独自の冷却技術を採用した新しい製品でしたが、その優位性を言葉だけで伝えるのは難しく、お客様に価値を理解いただき、購入を決断していただくまでには時間がかかりました。
    そこで私たちは、まず代理店やエンドユーザーに対して実機を持ち込んだデモを積極的に実施しました。また、営業活動やデモの後には必ず振り返りを行い、「どうすれば価値が伝わるのか」を何度も議論しながら提案方法を磨いていきました。
    市場で認知が広がり始めたと実感できたのは、お客様からリピート注文をいただけるようになってからです。価値が伝わるまでには時間を要しましたが、最終的には「購入してよかった」と評価していただけるようになり、製品への信頼が着実に広がっていったことを実感しました。
春日さんのインタビュー写真
  • 吉田さん:
    ブラザーエンタープライズからの初回出荷分が売り切れた時は、一緒に喜び合いましたね。
  • 成田さん:
    あの時は本当にうれしかったです。もちろん、これは私たちの力だけで達成したものではありません。PureDriveを気に入ってくださった代理店の方々が、私たちの知らないところでも動いてくださり、自発的に多くのお客様に広めてくださったことも大きいと感じています。
  • 春日さん:
    代理店の方々には感謝しかありません。初代のPureDriveの発売から2〜3年が経つ頃には「ブラザーが新しいスポットクーラーを出したらしい」という声が、あちこちから聞こえるようになりました。展示会で、競合他社の方から「排気が熱くないのは、どういう仕組み?」と聞かれたこともあります。もちろん、詳しくは教えられませんが(笑)、空調業界の競合からも意識されるようになったと肌で感じた瞬間でした。
  • 飯島さん:
    私が印象に残っているのは、「PD-7100」シリーズの不具合対応でお客様先に駆けつけた時のことです。お叱りを受けることを覚悟していたのですが、お客様は「前に使っていたモデルがすごく良かったから、ブラザーさんの製品をリピートしたんだ」とおっしゃるのです。不具合対応で伺ったはずが、逆に褒めていただいて。ありがたく思うと同時に、今後も良い製品をつくっていこうと、身の引き締まる思いでした。

4.グループの総合力で挑む、日本発PureDriveの世界展開

開発、市場への浸透、そして拡販へと、チームは歩みを進めました。2025年に発表された据置型のモデル「PD-7100」シリーズの販売はブラザー販売へと引き継がれ、ブラザーエンタープライズは産業車両用、フォークリフト用のモデルを販売する体制を構築しています。
一方、ブラザー工業の新規事業推進部では、海外工場での製造体制を整えました。ここから、日本発のPureDriveは世界へと広がり始めます。

  • 中川さん:
    ブラザー販売では、2025年からPureDriveの販売を担っています。これまで扱ってきたプリンター・複合機と比較して大型で重量もあるPureDriveは、物流や修理対応が異なります。受発注から修理対応、社内の情報共有まで、販売のスキームを一から構築するのは大変でした。
    営業担当も、製品知識がゼロからのスタートでした。自ら学ぶことはもちろん、代理店向けの勉強会を開催したり、代理店に同行して全国のお客様を回ったりと活動を続け、この1年でその回数は約500件にのぼります。今ある販売実績は、文字通り全員で汗をかきながら地道に積み上げてきたものです。
中川さんのインタビュー写真
  • 吉田さん:
    従来の製造業や物流業以外にも、導入先が広がってきているようですね。
  • 中川さん:
    そうなんです。官公庁や学校などでは、電力使用量に制約があったり、建物の老朽化により取り付け工事が難しかったりするケースがあります。そんな時に、省エネで、かつ設置工事のいらないPureDriveが重宝されています。
  • 吉田さん:
    今年の7月に発生した「令和8年熊本地震」では熊本県への支援の一環として、スポットクーラー154台を寄贈しました。設置工事が不要で、排気熱風も出さない特性を生かして、連日、猛暑が続いた被災地で役立ってくれていることを期待します。
  • 尾出さん:
    中川さんたちが国内で築いてくれた実績を土台に、私たちは新モデルの開発を進めました。2026年には「PD-7100F/PD-7100S」に次ぐ据置型の新モデル「PD-7105」を発売しました。これは、ダクトをなくしたデザイン性の高いモデルです。
    開発のきっかけは、欧州市場からのフィードバックでした。PD-7100の展開を通じて、新たなニーズが見えてきました。「オフィスや商業施設向けに、よりデザイン性の高いモデルがあれば市場をさらに広げられる」。その声から生まれたのがPD-7105です。
尾出さんのインタビュー写真
  • 飯島さん:
    日本国内のテストマーケティングでは、ホテルや文化施設のような洗練された空間でPD-7105が選ばれたと聞いています。
  • 尾出さん:
    はい。こうしてさまざまな場所でPureDriveの価値が広がっていることに、手応えを感じています。販売も前年より大幅に伸び、一定の評価をいただけていると実感しています。
  • 川越さん:
    私も尾出さんと一緒にPD-7100シリーズの立ち上げに携わってきたので、感慨深いです。海外工場の製造立ち上げも終え、今はアメリカへの展開を進めています。販売に向けて解決すべき課題はありますが、現在一つずつ対応を進めています。アメリカは日本の約3倍規模という大きな可能性を秘めた市場ですし、なんとしても販売を実現させ、世界に広く価値を届けていきたいと考えています。
川越さんのインタビュー写真
  • 尾出さん:
    日本でも欧州でもアメリカでも、これから大切になるのはお客様との関係を深めていくことです。フィードバックをしっかり反映させ、お客様の課題を解決する商品の開発を続けていきます。
  • 中川さん:
    国内では、商業施設や店舗などの民需に加え、官公庁での防災対策といった新たな市場への広がりも見えてきています。消費電力やCO2排出量を大幅に抑えられるPureDriveを通じて、お客様のカーボンニュートラル推進にも貢献したいと考えています。
  • 飯島さん:
    市場への展開を進めるなかで、「ブラザーがなぜ今、空調事業をやるのか」と問われることもあるでしょう。ただ、今までやってこなかったからこそ、これまで解決できなかった課題に応える製品をつくることに意味があると考えています。
    PureDriveは、超低消費電力性へのこだわりと「排気熱に困っている」という声があったからこそ生まれた製品です。お客様のお困りごとは何か。そこを起点に考え、形にすることはまさにブラザーのコーポレートメッセージである”At your side.”の精神を具現化することだと思います。この製品の価値を世界に発信し、多くの人に使っていただくことで、お客様の課題解決に、そして環境課題の解決にブラザーとして貢献していきたいと考えています。
飯島さん・吉田さん・市橋さん・川越さん・中川さんのインタビュー写真
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