2026.3.26
社内起業家のゼロからの挑戦に仲間が集う――手書きノートアプリ「BuddyBoard」成長の軌跡
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- 日常で感じた課題を解決するため、新規事業を生み出す起業家精神
- 既存の所属にとらわれず、チャレンジする人のもとに集う仲間
- 社内外のネットワークを使って現場の声を集める
- 目次
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- 小坂 来造
- ブラザー工業株式会社 新規事業推進部 チーム・マネジャー
株式会社BuddyBoard 代表取締役社長 - ブラザー工業でプリンターの設計業務に携わりながら、「経営が分かるエンジニアになりたい」との思いから大学院に通い、MBAを取得。社内の新規事業創出の仕組み「BAtON」を活用してアイデアを応募し、新規事業推進部へ異動。新製品「BuddyBoard」の構想、開発、リリースなどをプロジェクトリーダーとして推進。新会社「株式会社BuddyBoard」では代表を務める。
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- 工藤 康博
- ブラザー工業株式会社 新規事業推進部 エグゼクティブ・エンジニア
- ソフトウェアエンジニアの経験者採用でブラザー工業に入社。プリンターのファームウェア開発などを担当した後、Web会議システムの開発に携わる。Web会議システムがサービスを終了した後、その開発を通して得た技術や知見を活かしてBuddyBoardの開発に加わり、技術責任者となる。
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- BuddyBoard
- 手書きの内容をリアルタイムで複数人に共有できる、iPad用ノートアプリ。2021年に無償版をリリースし、2022年に有料サービスを開始。設計図面でのアイデア出しや指示メモなど、建築業界を中心に活用されている。事業成長のさらなる加速を目指すため、2026年3月に新会社「株式会社BuddyBoard」として事業を独立させ、2026年5月からは、SaaSビジネスや建築業界の知見が豊富な株式会社IncubeX Studioとのジョイントベンチャーとして事業運営を進めていく。
2026年3月、ブラザー工業発の新規事業「BuddyBoard(バディボード)」は、株式会社BuddyBoardとして新たな一歩を踏み出すこととなりました。
一人の社内起業家の挑戦に、社内外のさまざまな人々が手を貸し、仲間が集まって、ひとつのアイデアが新会社という形に成長してきました。その軌跡をプロジェクトの中心メンバーの声とともに振り返ります。
1.前例のない挑戦への不安はゼロではない。それでもやってみたい
BuddyBoardのきっかけは、プリンターの設計に携わっていた小坂さんの日常にありました。- 小坂さん:
- 設計の仕事をしていると、寝る前などふとした瞬間にアイデアが浮かぶことが多く、アイデア帳に書き留めていました。この手書きのアイデアをどう表現して展開するか――そんな日常の課題意識が、BuddyBoardの出発点でした。
紙のアイデア帳だけでなく、タブレットのメモアプリもよく利用していた小坂さんは、ビジネスにおけるデジタル手書きデバイスに可能性を感じるようになりました。
その頃、社内で新規事業創出の仕組み「BAtON(バトン)」が立ち上がりました。従業員は誰でも新たなビジネスアイデアを応募でき、クラウドファンディングのように従業員の“共感”を集めるなどの審査基準をクリアすると採択され、新規事業推進部へ異動してプロジェクトに専念できるという、ブラザー独自の制度です。
BAtONが立ち上がったと聞いた小坂さんは、日常の課題意識に着想を得たビジネスアイデアを応募。審査をクリアし、BAtONの第1期プロジェクトとして採択されました。当時の心境を、小坂さんはこう語ります。
- 小坂さん:
- 最初にBAtONの説明会があった時に、とにかく応募しようと決めました。働く環境が変わるし、BAtON自体も新しい仕組みで前例がないので、プロジェクトが成功するかも、自分の将来も、不安はゼロではなかったです。それでも、やってみたいという思いが勝っていました。良くも悪くも結果がすべてだけれど、自分が立ち上げたプロジェクトに集中して全力で頑張れるところに、面白さを感じました。
2.“求められている”と証明しなければ終わる――試作品を抱えて走り回った日々
BuddyBoardの事業化への道のりは、崖っぷちの連続でした。プロジェクトの採択後は定期的な進捗報告が求められ、進展が見込めないと判断されるとプロジェクト中止の判断が下されてしまいます。
小坂さんが「特に忘れられない」と語るのは、“BuddyBoardは求められている”と証明するために動き回った日々のことです。
まだ製品として世の中に出ていないのに、どうやって“求められている”と証明するのか――小坂さんは社内外の協力を受けて、いくつかの大手企業に試作品のデモンストレーションをしてもらう機会を得ました。その評価を示しながら、BuddyBoardの有用性を説得していったのです。
- 小坂さん:
- 当時はさながら行商のような毎日でした。十数台のタブレットをバッグに詰め込み、大手企業の本社やグループ会社のもとへBuddyBoardを持ち込んで、試作品をひたすらデモ、デモ、デモ。使ってもらった後はアンケートを取り、反応を集め、改善を重ねる。その積み重ねが、BuddyBoardを成長させていきました。
こうしてユーザーの声を集める中で、BuddyBoardのソリューション提供方法は何度も修正され、形を変えていきました。
- 小坂さん:
- 始めから完成形が見えているわけではなかったので、手探りで方向性を探りながら、製品の形は大きく変わっていきました。それでも、「“自分の考えを、素早く・わかりやすく伝える。”そのための手助けをする道具でありたい」という思いはブレませんでした。
3.部門を越えて“アンダーグラウンド”な研究の成果を取り込む
BuddyBoardの開発を進めるには、多くの仲間の存在も欠かせませんでした。その一人、ソフトウェアエンジニアの工藤さんとの出会いは、一つのターニングポイントでした。
- 工藤さん:
- BuddyBoardに出会う少し前、私はWeb会議システムの開発を担当していました。Web会議システムを進化させようと研究を重ね、成果が形になった頃、そのシステムのサービス終了が決まってしまいました。研究成果をWeb会議システムに活かすことはできなくなりましたが、ここで終わりにせず、なんとか世に出せないかと思っていたところ、BuddyBoardと出会いました。
その時の様子を、工藤さんはこう振り返ります。
- 工藤さん:
- BAtONを立ち上げた方にBuddyBoardプロジェクトを紹介してもらったのですが、実は、私としては“特別な出会い”という感覚ではありませんでした。ブラザーでは、普段から何かあると、部門を越えて社内のさまざまな人を紹介してもらえるので、“普段通り”の流れで小坂さんを紹介してもらったという感覚でした。
工藤さんが研究していた成果が、ちょうど開発中のBuddyBoardが直面していた課題を解消し、プロジェクトは事業化に向けて大きく前進することになりました。この研究成果にも、あるエピソードがあります。
- 工藤さん:
- この研究は、正式な業務とは別の“非公式研究”でした。私が上司に「こんな技術研究をしたい」と話したところ、製品として実を結ぶのは難しいことが目に見えていたのだと思いますが、いわば“アンダーグラウンド”に取り組んでいいというようなことを言われました。Web会議システムとしては実を結びませんでしたが、BuddyBoardとして世の中に出せたのはうれしいですね。
部門を越えて、開発や営業といった仲間を少しずつ増やしていったBuddyBoardプロジェクト。メンバーが異動前に所属していた部門とのつながりも活かしながら、社内でBuddyBoardを使ってもらい、フィードバックを受けて改善を重ねました。海外拠点へ活用状況のヒアリングをした際には、現場から要望のあった機能を開発メンバーがその場で実装したこともありました。
4.チャレンジする人のロールモデルになりたい
2021年にテストマーケティングを兼ねた無償版をリリースすると、予想外の業界から多くの問い合わせが舞い込みます――それが建築業界でした。
当初は、図面を多用する製造業での活用をイメージしていましたが、同じく図面を使う建築業でのニーズが予想以上に大きかったのです。遠く離れた設計事務所と建築現場との間で、リアルタイムに図面に描き込みながらコミュニケーションできるBuddyBoardは、建築業の業務効率化に効果を発揮。建築業のDXを進め、人手不足や働き方改革への対応策として求められるものでした。
この状況を見た小坂さんは、社内外の人脈を使って、いくつかの建築会社に足しげく通い、BuddyBoardのヒアリングを何度も実施。ブラザーの工場の建設現場も訪問しました。
- 小坂さん:
- 建築の現場を知れば知るほど、「この機能を追加しよう!」「現場ではこう使うんだ!」と日々アップデートの連続でした。
2022年には有料サービスを開始し、今では複数の大手建築事務所でも採用されるなど、事業拡大を続けています。
そして、事業成長のさらなる加速を目指すため、2026年3月には「株式会社BuddyBoard」として事業を独立。5月からは、SaaSビジネスや建築業界の知見が豊富な株式会社IncubeX Studioとのジョイントベンチャーとして事業運営を進めていきます。
ゼロから始まったBuddyBoardの道のり。新会社設立という新たなフェーズを迎えた今、小坂さんはこう語ります。
- 小坂さん:
- これまで本当に多くの方々に応援いただきました。その方々に報いたいという思いが、私がチャレンジを続ける原動力の一つになっています。加えて、私が挑戦を続ける姿が、これからチャレンジしたいと思っている人たちの力になればと思っています。新規事業を立ち上げたいという情熱を持っている方のロールモデルとなり、挑戦しやすい環境を届けられるよう、これからも頑張っていきます。
BuddyBoardはまだ進化の途中。これからも仲間と共に、新たな挑戦を続けていきます。
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