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サムネイル:アフリカ記事 取材対象者集合写真

2026.1.28

印刷サービスでアフリカの農村の暮らしを便利に。ブラザーとDots forが描くアフリカの新たな日常

Pick Up !
  • 印刷サービスを通して、アフリカ農村部の生活利便性を向上
  • 一方的な支援ではない継続的なビジネスとしての社会課題解決
目次
  1. 1.アフリカ農村部で“自分たちだけが気づけた”課題
  2. 2.既存製品で新しい価値を生み出すアプローチ
  3. 3.“アジャイルマインド”で続く挑戦
  • 平野 憲之介プロフィール写真
    平野 憲之介
    Managing Director, Brother International (Gulf) FZE
    日本国内でプリンターなどの販売や営業、マーケティングに従事した後、新興国向け製品の営業企画担当としてさまざまな国を回る。その後、シンガポールの販売会社での新規ビジネス立ち上げを経て、ドバイに拠点を置き、中近東・アフリカで活動する販売会社の代表に就任。
  • 御船 大輔プロフィール写真
    御船 大輔
    ブラザー工業株式会社 新規事業推進部
    人事部門で新卒採用に携わった後、ラベルプリンターの商品企画や営業企画に従事し、主にアメリカ市場を担当。その後、社内公募制度を利用して新規事業推進部へ異動し、現在は、社内と社外をつないで新しい事業をつくる「オープンイノベーション」に取り組んでいる。
  • 大場 カルロスプロフィール写真
    大場 カルロス(大場 博哉)
    株式会社Dots for 代表取締役
    大学卒業後、母親の急逝が転機となって、“生きる意味”について考えるようになる。バックパッカーでの100カ国以上の旅行や、アメリカに留学してのMBA取得、大手Eコマースやスタートアップなどでの勤務を経て、2021年にDots forを起業。2023年からは家族と共にベナンへ移住。“カルロス”は、留学中に中南米の旅を重ねて名乗り始めたニックネーム。
    株式会社Dots for
    西アフリカのベナンやセネガルの農村部において、低コストでの通信インフラの設置、スマホの分割払い販売、スマホで取り組める仕事や職業訓練へのアクセス、といったサービスを一気通貫で提供するスタートアップ。デジタルと通信の力で、アフリカ地方部の制約をなくすことを目指している。
    Dots forロゴ

ブラザーとDots forの連携で2024年に始まった、ベナンでの「村の印刷サービス」。ブラザーのプリンター・複合機を活用して、これまで何時間もかけて街に出向いて行っていた印刷・コピーを、村で好きなときにできるようにするというユニークなビジネスです。2025年にはセネガルでも村の印刷サービスを始めており、継続的なビジネスとして、アフリカ各国の農村部で展開することも視野に入れながら活動しています。
活動の原動力となっているのは、「新しいビジネスを成長させたい」「人と密に関わる仕事をしたい」「自分の存在の意味を世界に残したい」という、この取り組みに携わる3人それぞれの思いでした。彼らの物語がどう交錯したのかをつづります。

1.アフリカ農村部で“自分たちだけが気づけた”課題

平野さん:
一度失敗した経験があったからこそ、村の印刷サービスのビジネスプランを聞いたとき、「今回はうまくいきそうだ」と直感しました。

そう語る平野さんは、中東のドバイに拠点を置くブラザーの販売会社の代表です。
日本を拠点に新規事業の創出に取り組む御船さんは、こう振り返ります。

御船さん:
プリンター・複合機を使った新しい事業を模索して、アフリカの都市部でテストマーケティングを行ったことがあります。テストの結果、既存のサービスと競合するレッドオーシャンだと分かり、そこから先に進めることができませんでした。

しかし、この経験が次につながる“縁”を生みました。テストマーケティングを現地でサポートしていたのが、当時、アフリカで事業展開するスタートアップに在籍していた大場さんだったのです。

大場さん:
ブラザーのテストマーケティングをサポートしてからしばらくの後、独立してDots forを立ち上げました。アフリカの、特に農村部は、“援助の対象”であって、ビジネスを行う“市場”ではないというイメージが強いかもしれません。そんなアフリカ農村部が、有望な市場として世界から注目されて、そこに住む人たちがより幸せになる世界をつくりたいという思いを持ってDots forを創業しました。

アフリカ農村部には、通信インフラがないために情報が得られず、さまざまな機会へのアクセスも制限されるという課題がありますが、これまでは「投資が回収できない」として取り残されてきました。

大場さん:
Dots forでは、低コストでの通信インフラ設置、スマホの分割払い販売、デジタルプラットフォーム「d.CONNECT」を組み合わせて展開しています。d.CONNECTでは、例えば、スマホで取り組める仕事や、仕事を始めるのに役立つトレーニング動画へのアクセスを提供し、農村部の人々が収入やスキルを得られるようにしています。そこで得た収入でスマホの代金を返済したり、d.CONNECT上で農機具などの仕事道具を分割払いで購入したりできるようになり、Dots forも農村部の人々も継続的に成長する循環が生まれます。
大場さんのインタビュー写真

そして、ベナンを拠点に活動を始めた大場さんは、あることに気づきます。

大場さん:
公的書類の印刷や学校教材のコピーの需要があるにもかかわらず、村の中に印刷・コピーを行える場所がなかったのです。農村部の人々は、印刷・コピーのために、数十キロ離れた近隣の街まで1日かけて、印刷・コピー代よりもはるかに高いお金を払って移動していました。これも情報格差の一種だと思いますが、彼らはこれが当たり前だと思い、課題であることにも気づいていませんでした。

ここにも取り残された課題がある――そのとき大場さんの頭に浮かんだのが、ブラザーでした。

大場さん:
過去にアフリカの都市部でのブラザーのテストマーケティングをサポートしていたことがありましたが、テスト段階で終わってしまったので「もったいないな」と感じていました。そこで「続きをやりませんか」という思いでブラザーに声をかけました。

話を聞いた平野さんは、「これまでアフリカ農村部になかった、全く新しいサービスを提供する――これなら行ける!」と直感します。

平野さん:
プリンター・複合機という“既存製品”でも、d.CONNECTやアフリカ農村部という環境と組み合わせることで、“革新”を起こせると思いました。
大場さん:
アフリカ農村部での水や電気といった困りごとは世界中が認識して、解決のために多くの団体が動いていますが、印刷・コピーの課題に気づいて動いているのは、おそらく私たちだけではないかと思います。

平野さんは、別の視点からも「Dots forと一緒ならビジネスを進めていけそうだ」と考えます。アフリカをカバーする販売会社の代表として何年かビジネスをしてきた平野さんは、「アフリカ市場を自力で開拓するのは非常に難しく、仲間づくりが必要だ」と感じていました。

平野さん:
すでにユーザーとのつながりを持っている組織と協業することで、持続可能なビジネスモデルを構築する――私はこれを「囲えている組織を囲う」と呼んでいますが、ここにアフリカビジネスのポイントがあると思います。農村部の人々を地道に説得しながら活動範囲を広げ、地域に根差した事業を展開しているDots forと一緒なら、農村部の人々・Dots for・ブラザーの全ての関係者が利益を得ながら継続的にビジネスができる、という未来を描けました。

2.既存製品で新しい価値を生み出すアプローチ

ベナンの農村部で始まった村の印刷サービスですが、仕組みとしては、日本のコンビニに置いてあるマルチコピー機に似ています。農村部の人々は、村内に設置されたブラザーの複合機を使って、街まで移動することなく印刷・コピーができるようになります。
日本のコンビニと異なるのは、複合機を設置する場所が、必ずしも建物の中だけではないということです。軒先や露店のような場所に設置されることもあり、土ぼこりや昼夜の温度変化にさらされます。複合機にとっては厳しい環境ですが、ここはブラザー製品の強みの生かしどころ。屋外のような厳しい環境で使われることも想定しながら開発された複合機が活用されています。
また、複合機の操作や料金の支払いは、d.CONNECTのアプリを通じて行います。料金を回収する仕組みを確保して、ビジネスを継続的なものとしています。

アフリカ・ベナンの農村に設置されたブラザーの複合機の写真
御船さん:
村の印刷サービスは、新しい製品や技術を開発するのではなく、既存の複合機を使いながら、どうやって新しい価値を提供するかという視点から始まりました。こうしたアプローチを形にできたのは、大きな成果だと思います。
平野さん:
現地の中学生くらいの方に、「村で印刷ができるようになってうれしい」と言われたことをよく覚えています。日本では当たり前にできる印刷ですが、こうして価値を生んで喜んでもらえるのだと実感しました。
アフリカ・ベナンでの、平野さん、大場さん、Dots forメンバーなどの集合写真

3.“アジャイルマインド”で続く挑戦

御船さんは、大場さんの仕事への取り組み方が、ブラザーにとって大きな原動力になったと語ります。

御船さん:
大場さんは自ら農村に足を運び、住民たちと向き合い、あらゆるものを駆使しながら、できることを考え、地道に、人間臭く仕事をされていました。
私には、人事部で採用担当をしていた時代に、学生と向き合い「こんな魅力がある会社なんです」と熱量を持って真摯に話すことで、学生に本質を伝えられたという原体験があります。だからこそ、現場で顔と顔を突き合わせることでものごとを動かすところに、仕事の一番のダイナミズムがあると思っており、それを究極的に体現する大場さんに強烈なシンパシーを覚えました。
御船さんのインタビュー写真

ブラザーとDots forはこの先、村の印刷サービスをアフリカの幅広い地域で展開していくことを視野に入れています。

平野さん:
アフリカでのビジネスは短期的な成果を目指すより、今後確実に人口が増えるこの地で5年、10年と時間をかけて浸透させていくものと捉えて、腰を据えて取り組みたいです。これからビジネスがぐんぐん伸びていくだろうというワクワク感が、私自身の仕事の原動力にもなっています。

大場さんも、ブラザーとは今後“二の矢”、“三の矢”を、一緒に展開していきたいと言います。あわせて、他社にも連携を広げ、日本企業がアフリカに進出する際の「ゲートウェイ」の役割をDots forが果たしていきたいと語ります。

大場さん:
農村にはまだまだ課題がたくさんあり、今後もさまざまなニーズが顕在化するでしょう。だからこそ、現地への適合は我々がやるので、とりあえずモノや技術を送ってくださいといった形で、取り組みをどんどん進めていきたいです。
私の活動の核には、「“一生旅人”として、この世のすべてを見たい、知りたい、触りたい、とにかく世界の知らないところに行きたい」「自分が存在した意味を残したい」という思いがあります。よくDots forの事業は社会的意義が高いと言っていただきますが、根本にはその思いがあって、突き詰めれば“自分のため”に活動しています。
平野さん:
不確定な要素が多いアフリカでのビジネスでは、かっちりと完成させた製品やサービスを持っていくことより、とにかく投入してみて、やりながら改良していく“アジャイルマインド”が求められます。そのために、プリンター・複合機の開発者をアフリカの現地に派遣する取り組みも進めています。現地に一定期間滞在してもらうことで、いろいろな学びを得てもらい、開発に生かしていけたらいいなと思います。

ブラザーとDots forはこれからも村の印刷サービスを通じ、アフリカの農村に人々の笑顔の輪を広げていきます。

平野さんのインタビュー写真
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