2026.4.30
未開拓のロボット市場へ。全社一丸となってつくり上げた高剛性減速機「UXiMO」誕生の裏側
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- 成長著しい産業用ロボット市場へ。「高剛性・高トルク」が求められる未開拓領域へ挑戦
- 開発・生産技術・営業が部門の壁を越えて連携し、ニッセイ独自の技術力で付加価値を創出
- ブランド名を社内公募。半世紀ぶりの新ブランドを全社で盛り上げていく
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- 藤田 智之
- 減速機事業部 開発部 部長
- 減速機の設計・開発に長年従事し、特注品対応や新製品開発など、さまざまな業務を経験。その過程で、多くの減速機に関する知識を身につけ、大学との共同研究を通じて博士(工学)の学位も取得。現在は、お客様の困りごとの解決を目指すべく、新製品の企画や要素研究の立案、開発計画の管理など、製品開発プロジェクト全体を推進している。
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- 岡本 浩平
- 減速機事業部 営業企画部 RC企画課 課長
- 入社後、海外営業担当としてさまざまな国・地域向けに歯車、減速機の深耕営業から新規顧客開拓まで幅広く活動。その後歯車事業を経て、高剛性減速機の企画業に携わり、マーケティング、販売戦略の策定、社内調整、製品教育、上市後の拡販フォローまで一貫して担当。市場や顧客の声を起点に、関係部門と連携しながら製品価値の最大化を図る。現在は歯車事業部で営業活動に従事。
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- 立岡 和馬
- 減速機事業部 技術管理部 生産技術課
- 入社後、生産技術部門に配属され、組み立てに関する治工具関連の設計に従事。ブラザー工業向けの製品立ち上げにも携わる。その後、藤田の下で高剛性減速機の開発を担当。再度生産技術部門へ戻り、現在はこれまでに培った生産技術での治工具類の知見と開発で得た製品知識を生かし、生産現場の改善に努める。
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- 株式会社ニッセイ
- 1942年に日本ミシン製造株式会社(現、ブラザー工業株式会社)へミシン部品を供給する目的で設立され、その後、培った高度な加工技術を活かして歯車や減速機の製造を開始。豊富な製品ラインアップと高い技術力で多様なニーズに応える。2021年には産業用ロボット市場向けの高剛性減速機「UXiMO(アクシモ)」を発売し、新たな市場の開拓に挑戦。2013年にブラザー工業の連結子会社となり、2022年に完全子会社され、ブラザーグループの一員として成長を続ける。
ブラザーグループの一員として、歯車・減速機を製造してきた「ニッセイ」。同社の減速機事業としては未開拓となる「産業用小型ロボット向け製品」の開発に挑戦しました。そして完成した製品は、同社にとって実に約半世紀ぶりとなる新ブランド「高剛性減速機UXiMO(アクシモ)」と名付けられました。
その挑戦では、通常の減速機よりはるかに高い「剛性(変形のしにくさ)」と「精密さ」が求められました。既存製品の延長線上では対応できない、ニッセイにとって前例のないシビアな領域です。
技術の壁を前に、開発・製造・営業がどのように連携し、プロジェクトは進んでいったのか。ブレイクスルーの根底には、部門の壁を越えた、モノづくりに真摯に向き合うニッセイの企業文化がありました。
1.市場の動向をくんだ、新製品開発への挑戦
同社にとって約半世紀ぶりとなる新ブランド、高剛性減速機「UXiMO(アクシモ)」。この開発プロジェクトは、当時研究開発課の課長を務めていた藤田さんの着想から始まりました。藤田さんは入社以来、特注品の設計などを通じて歯車・減速機を知り尽くした技術のエキスパートです。
そもそも「歯車(ギア)」とは、機械の中に組み込まれ、「歯」同士がかみ合うことで、機械を動かす力を生み出す部品です。そして「減速機」は、複数の歯車を用いて駆動源であるモーターの回転数を落とす(減速させる)代わりにトルク(ねじりの強さ)を増幅させる装置です。いずれも、機械設備を正確に動かすのに欠かせません。
当時の市場動向について、藤田さんはこう語ります。
- 藤田さん
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当時、製造現場での自動化・FA化※の加速を背景に、産業用小型ロボットの需要拡大が予想されていました。ロボットの可動軸(関節)に不可欠な高剛性減速機の市場が確実に伸びるといわれていた時期で、ニッセイとしても、その市場に目を向けるべきだと感じていました。
- ※産業用ロボット・センサー・コンピューター技術を駆使し、工場の製造・組み立て・搬送・検査などの工程を自動化・無人化すること
ニッセイは1942年、ブラザー工業株式会社(当時は日本ミシン製造株式会社)に提供するミシン部品の製造から始まり、その製造を通じて培った加工技術を生かし、歯車、減速機へと事業を拡大してきた歴史があります。ニッセイが製造する小型の減速機は、自動ドアや回転ずしのレーン、高速道路の開閉ゲートなど、日常の身近なところにも使われています。
営業として、お客様の声を直接聞く機会の多い岡本さんは、ニッセイの強みをこう語ります。
- 岡本さん
- ニッセイの減速機は標準品約14万機種の豊富なバリエーションがありながら、柔軟な特注対応や短納期対応が可能です。これらの対応を支えているのは、充実した製造設備による部品の高い内製化率と、丈夫で壊れにくく、お客様に長く使っていただける製品をつくることができる技術力です。
お客様のさまざまなニーズに対応することで「次もまたニッセイにお願いしたい!」と言っていただけるリピートユーザーも多くいます。
柔軟な対応力と高い技術力で、お客様からも厚い信頼を得ているニッセイ。それでも、産業用ロボット向けの減速機市場に参入するには高いハードルがありました。
- 藤田さん
- 減速機は、ロボットの動きを精密に制御するために欠かせない基幹部品です。今後の産業用ロボット市場では、高い作業効率と省スペース化(スリム化)の両立が求められます。そのため、減速機には「小型でありながら極めて高い剛性とトルクを併せ持つこと」が要求されます。
「剛性」とは、外部から強い力(曲げる、ねじる、重い荷物を載せるなど)が加わっても変形しない性質のことです。剛性の高さは、例えばロボットアームがブレずにピタッと止まる安定性や、長期的な耐久性に直結します。一方「トルク」とは、物体の回転時に働く力(ねじる強さ)のことを指します。身近な例でいえば、固いペットボトルのふたを開ける時に必要な力と同じです。
- 岡本さん
- 歯車事業としては産業用ロボット市場のお客様とすでに取引がありました。ただ、ロボット駆動部に求められる「高剛性・高トルク」という仕様は、既存減速機のラインアップでは対応できなかったため、私たちにとっては未開拓の領域でした。ただ、今後間違いなく自動化のニーズは高まる。お客様の期待に応えるためにも、減速機で産業用ロボット市場へ参入することは必須だと感じていました。
藤田さんの着想は、ニッセイの減速機の対応領域を広げるものでした。経営層へ打診した際の反応は、予想以上に前向きなものだったと藤田さんは振り返ります。
- 藤田さん
- 経営層からは「ぜひ挑戦してみたら」と、前向きに背中を押してもらいました。最初は研究開発課のごく少人数で描いたアイデアでしたが、これを形にすれば、自分の手で未開拓の市場に新しい製品を送り出せる……技術者として心からワクワクし、楽しく研究に取り組んだのを覚えています。
2.立ちはだかる技術の壁。部門間の距離の近さが生んだブレイクスルー
研究開発課から始まった開発プロジェクトは、営業や生産技術が合流し、全社的な取り組みへと発展していきました。しかし、乗り越えるべき大きな壁が2つありました。
1つ目は、産業用ロボットの正確な動作に欠かせない高い剛性をどう実現するか。2つ目は、すでに市場に先行する同業他社の製品に負けない「ニッセイならではの独自性(付加価値)をどう打ち出すのか」という点です。
- 藤田さん
- ロボット用減速機には主に小型から中型サイズの減速機で使われる波動減速機構、中型から大型サイズの減速機では剛性に優れた偏心揺動型 差動減速機構があります。私たちは小型から中型サイズにおいて剛性やトルクを強化することで差別化を図るため、偏心揺動型 差動減速機構を採用しました。
しかし、この機構の選択は、製造現場にこれまでにない難題を突き付けることになりました。生産技術部の立岡さんがその難しさを語ります。
- 立岡さん
- ニッセイとしてこの機構を採用するのは初めてで、部品が極めて精密になるため、加工精度や組み立ての難易度が格段に上がり、初期段階からかなり苦労しました。
未経験の機構と精密な部品。私たちは、開発と製造現場の間に立ち、時には社内にいる加工のスペシャリストなどの知見も借りながら、量産化に向けて試行錯誤を重ねました。
- 藤田さん
- 生産技術課からは、「図面のこの部分は加工が難しく、今のままでは実現できない」といった率直なフィードバックを受け、そのたびに「市場の要求をクリアするための折衷案はないか」と話し合いました。
一方的な要望ではなく、互いに知恵を出し合って図面と現実のギャップを埋めていき、何とか高い精度の製品を実現することができました。
開発と生産技術。役割は違っても、より良い製品を世に出したいという思いは一致しています。部門間に垣根をつくらず、互いにどうすれば課題をクリアできるか、密なコミュニケーションで追求する。真摯にモノづくりに向き合うニッセイの企業文化が、そこに表れていました。
こうして機構のめどが立ち、次はもう一つの、「ニッセイならではの付加価値をどう生み出すか」という課題に向き合うことになりました。その糸口を見つけられずにいた岡本さんと藤田さんが、決定的なヒントをつかんだのは、ヨーロッパで開かれた世界最大規模のロボット専門展示会でのことでした。
- 岡本さん
- UXiMOのラインアップには中空タイプがあります。減速機の中央にケーブルやシャフトを通せる穴(中空径)が空いているタイプですが、減速機自体の外形サイズによって、この中空径の大きさには物理的な制限が生じます。海外のロボットメーカーの展示ブースで、より太いケーブルを通す、つまり中空径を大きくしたいためだけに、あえて一回り大きい減速機を採用しているケースが散見されました。
- 藤田さん
- 中空径のサイズへのニーズは、実際に展示会などでお客様の声を聞くまで気付かなかったポイントでした。外形サイズは産業用ロボットの省スペース性にも関わってくる問題です。減速機自体のサイズはそのままに中空径を大きくできれば、それを必要としているお客様に届けられるし、他社との差別化も図れると気付きました。
しかし、外形を変えずに穴だけ広げるということは、内部の機構を納めるスペースがドーナツ状に薄く、狭くなることを意味します。この物理的な制約をクリアするため、ニッセイが長年蓄積してきた歯車の知見が活かされることになりました。
- 藤田さん
- これまで常識・一般的と考えてきた歯車仕様そのものを見直す必要がありました。今回の開発では、ニッセイが長年蓄積してきた製造ノウハウを生かして、さまざまな歯車の仕様を検証しました。その結果、歯の高さを極限まで抑えた仕様に改良することで、「コンパクトな外形のまま剛性を高くして、中空径も広げる」という難題を乗り越えることができました。
未経験の機構、極めて精密な加工精度、コンパクトなサイズと中空径の最大化の両立――いくつもの高い技術の壁を乗り越え、「UXiMO」は形づくられていきました。その背景には、ニッセイという組織の構造的な強みもありました。
- 藤田さん
- 当社は社員800名ほどの規模ですが、本社工場の敷地内には営業・開発・生産技術、そして製造現場がすべて集約されています。普段の仕事でも、課題にぶつかったら、部門を問わず関係者がすぐ集まって、現物を見ながら「ああでもない、こうでもない」と、目線を合わせて議論しています。
この物理的・心理的な距離の近さが、「UXiMO」の品質と画期的な構造を実現する最大の原動力になったと思います。
3.全社一体で切り拓く市場。ブランド名「UXiMO」に込めた思い
開発を終えた高剛性減速機のブランド名は、「UXiMO(アクシモ)」。この名前は社内公募により決定しました。公募には、営業部門をはじめ、約200件ものアイデアが寄せられました。その中から選ばれた「UXiMO」という名前は、「UX = Unique experience」「i = in」「MO = Motion」を組み合わせた造語で、「ニッセイならではのユニークな使い心地」という思いが込められています。
- 岡本さん
- 「UXiMO」は、ニッセイの既存製品とは異なる機構を初めて採用した製品です。新製品で未開拓の業界に挑む決意を表すために、新ブランドとして立ち上げることを決めました。
また、公募を通じてさまざまな部署の社員に関わってもらったのも、「全社一体となって新ブランドを育てていく」という意識の醸成にもつながっています。
他にも、「UXiMO」の市場の存在感を高めるために力を入れたのは、営業活動のサポートです。
- 岡本さん
- 同じ減速機カテゴリーでも市場が異なるため、営業担当者の製品理解を深めることが、お客様に「UXiMO」を知っていただくことにつながると考え、製品の特長をまとめた販促資料や技術サポート資料を作成し、講習会を何度も実施しました。
当社の営業の強みは、高い積極性と顧客対応力にあります。後発メーカーとして参入障壁の高い市場に挑むからこそ、お客様の課題や質問に対して即座に対応する「姿勢」が重要だと考えています。
- 立岡さん
- 営業から特注仕様の相談があれば、営業、開発、生産技術がすぐにすり合わせを行い、試作品の検討に入ります。当社は内製している部品が多いため、こうしたスピーディーな対応が可能です。この部門間の距離の近さは、開発時だけでなく、営業活動を後押しするうえでも、強みとして活きています。
全社一体の営業活動は、当初メインターゲットとしていた産業用ロボットの市場の枠を超えて広がっていきました。その筆頭が、AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)への活用です。
「UXiMO」の特長である、コンパクトさ、高トルク、高耐荷重。それが実はAGV/AMRの車輪駆動部にとって最適だったことが、お客様の声から明らかになったのです。
未知の機構への挑戦から始まり、部門間の垣根を越えた連携によって誕生した「UXiMO」。ニッセイの新たな柱として、産業用ロボット市場での存在感を高めるべく、着実に歩みを進めています。
- 岡本さん
- ロボット業界の参入障壁は極めて高いですが、ニッセイには歯車事業ですでに取引関係があり、高く評価もされています。一度サプライヤーとして認められれば、次のお取引にもつながると考え、展示会への出展など、認知度を上げるための取り組みも積極的に続けていきます。
- 藤田さん
- 減速機は、数年単位で長く使っていただくことが前提の製品ですので、お客様が導入に慎重になるのは当然のことです。より多くのお客様に粘り強くアピールし「UXiMO」の良さを知っていただくことが導入への第一歩だと思っています。そのためには、開発・営業・製造が一体となって、お客様の声を聴く姿勢を貫き通すことが重要です。
今回、ブランドの立ち上げに至るまで、さまざまな部署から協力いただきました。多くの関係者から協力を得てできた製品だからこそ、それを無駄にしないためにも、目の前の要望や課題に応え、「UXiMO」をニッセイの新たな柱となるような製品に育てることで、社内外の期待に応えていきたいです。
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