2026.5.29
職人の勘をデジタル化。縫製現場の未来を変えるDIGIFLEX TUNE誕生までの物語
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- お客様の課題の「本質」を突き止め、芯を捉えた解決策でアプローチ
- 縫製現場の職人の暗黙知をデジタル化し、工場の生産性向上や継承者問題に貢献
- 若手がリーダーに抜擢。部門や年齢の垣根を越え、議論を重ねて難題を突破
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- 鬼頭 宏明
- Brother Internationale Industriemaschinen GmbH
Solution Division Controller - 工業用ミシン開発部にてプログラム式電子ミシンBASシリーズを中心に機械設計を担当。特にBAS-Hシリーズの設計に携わり、量産機の開発に従事。その後、営業部商品企画チームへ異動し、ノンアパレル分野、とりわけ自動車業界向けソリューション提案を行う“機動チーム”を立ち上げ、マネジャーとしてDIGIFLEX TUNEの企画や販促施策の検討と実施を担当。現在は事業譲受した会社との統合対応でドイツの販売会社に出向し、経営フォローおよび技術支援に取り組んでいる。
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- 松下 敏郎
- マシナリー事業 工業用ミシン事業 工業ミシン営業部
- 大手自動車部品メーカーで、カーシート縫製工程の生産技術を担当し、ミシン選定や購買業務を通じて現場の生産性向上に従事。その後ブラザーに入社し、工業ミシン営業部にてエアバッグやカーシートなどノンアパレル分野の国内外顧客に対する技術サポートおよび提案活動を担当。現在はメキシコを中心とした地域における技術サポート体制の構築に取り組んでいる。
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- 北村 春畝
- マシナリー事業 工業用ミシン事業 工業ミシン開発部
- 工業ミシン開発部で、機械設計、開発、評価を担当し、プログラム式電子ミシンBAS-Hシリーズではオプション部品や特注仕様の開発に従事。その後、ブリッジ型プログラム式電子ミシンBAS-Kシリーズの中核機能であるDIGIFLEX TUNEの開発を主導。現在は、BAS-Kシリーズの技術的な販促サポートおよび、プロジェクトリーダーとして次世代製品の開発に取り組んでいる。
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- 岳 斉也
- マシナリー事業 工業用ミシン事業 工業ミシン開発部
- 工業ミシン開発部で、特殊本縫いミシンの開発の製品設計、評価などに従事。ブリッジ型プログラム式電子ミシンBAS-Kシリーズの開発プロジェクトに参加し、プロジェクトリーダーとして製品の機能設計や改良、量産化に向けた調整などを担当。現在は、営業担当者が行っているブリッジ型ミシンのソリューション提案活動に対し、開発の立場から技術的なサポートを行う。
1908年にミシンの修理業からスタートし、現在では多角的に事業を展開するブラザー。長い歴史を持つ工業用ミシン事業においても、技術革新は続いています。そして2024年、工業用ミシンでターニングポイントとなり得る技術が生まれました。それが「DIGIFLEX TUNE(デジフレックスチューン)」です。
長年、熟練の職人が経験と勘を頼りに行ってきたミシンの精密な調整作業を、誰もがパネルの数値を見ながらできるようにするこの技術は、縫製現場のダウンタイム(非稼働時間)の大幅な削減と併せ、技術の属人化や継承といった社会課題の解決にも寄与する可能性を秘めています。
幾度もの議論を重ね、夢に見るほど頭を悩ませながら従来にない発想と技術を生み出したメンバーたちに、その軌跡を聞きました。
1.現場に足を運んで見えた「止まっているミシン」の真相
ブラザーには家庭用ミシンと同様、縫製工場などで使われる工業用ミシンでも長い歴史があります。これまでブラザーの工業用ミシン事業は主にアパレル業界向けが中心でしたが、近年はノンアパレル分野にもアプローチし、特にエアバッグなど自動車関連製品向けを強化してきました。この領域でニーズの高い縫製の自動化に対して、ブラザー独自の技術で応えていく方針です。
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- 鬼頭さん:
- 私はプログラム式電子ミシンの開発に15年携わった後、営業部に移り、ノンアパレル市場を開拓する“機動チーム”のマネジャーとなりました。機動チームは、ノンアパレル市場、特に自動車市場へのアプローチを進めるため、ブラザー独自のブリッジ型タイプのプログラム式電子ミシンを生かした自動化提案を行う技術者中心の組織として立ち上がりました。
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- 松下さん:
- 私はもともと自動車関連製品をつくるメーカーにいて、カーシートを縫製する現場で、工業用ミシンの選定などに携わっていました。つまり、お客様側の視点を持っていたため、「お客様のことをよく知る営業」として期待してもらったのだと思います。
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- 北村さん:
- 私は今回のプロジェクトで、DIGIFLEX TUNEの開発を主導しました。学生の頃から洋服が好きで、世界的に評価される日本発のファッションブランドの方と知り合って服づくりの現場を見せていただいた経験から、いつかアパレル業界に自分なりの形で貢献したいと、工業用ミシンの開発部を志望しました。
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- 岳さん:
- 機動チームから降りてきたテーマに沿って、開発チームが結成されました。私は工業ミシン開発部で機能設計や改良業務に携わった経験があり、今回はプロジェクトリーダーを務めました。
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- 鬼頭さん:
- ノンアパレル業界にアプローチするにあたっては、全員で製品のアイデアを出す場を設けました。
そのなかで、次の製品の開発テーマに据えたのが、お客様の「生産効率を上げたい」という課題に応えることです。ただ、一口に生産効率といっても、ミシンで縫う速度を速くする、布を交換しやすくするなど、アプローチはたくさんありました。
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- 岳さん:
- そこで特に力を入れたのが、私たち設計者自身が現場を訪ね、一次情報を得ることです。お客様の困りごとを真に解決するには、工場に足を運び、自分の目で見て体感し、お客様と会話したうえで、それを技術につなげる必要があると考えました。
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- 北村さん:
- 今回、縫製工場に足を運んで調査を進めるなかで気付いたのが、想像以上にミシンの止まっている時間(ダウンタイム)が長いことです。ミシンの作業停止時間を計測させてもらったところ、多くの現場で1日に数時間ものダウンタイムが発生し、そのダウンタイムの半分以上がミシンの「調整作業」に費やされていることがわかりました。
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- 岳さん:
- 調整作業とは、部品の位置やタイミングを合わせる作業のことです。縫製の過程で調整が必要なポイントは複数あります。例えば、針と釜(縫い目を形成する回転部品)の間隔の調整です。正しく縫製するには、その間隔を0.03~0.08mmという極めて微細な範囲に収める必要があります。
従来は、熟練したベテランが工具を使って釜を動かしながら「目視と感覚」で調整していました。しかしながら調整には再現性がないため、実際に縫製をしながら検証する必要があり、調整と縫製のトライアンドエラーを繰り返すことになります。そのため、最短でも10分程度のダウンタイムが発生します。
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- 北村さん:
- また、その他の調整箇所も同様に「目視と感覚」に頼って行うため、縫製不良が発生した際に、調整が必要なポイントの特定にも時間がかかり、ダウンタイムが発生してしまいます。
ただ長年この方法が続いてきたため、「時間がかかって当たり前の作業」として捉えられていました。
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- 岳さん:
- そんななか、当プロジェクトではその「当たり前」に着目し、実際のダウンタイムを数字で可視化したことで「調整時間の短縮こそが、生産性向上の最大のカギである」と確信しました。
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- 鬼頭さん:
- 言うなれば、“当たり前を疑うこと”で、工業用ミシンを使う現場の真の課題にたどりつけた。って、かっこつけすぎかな?
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- 松下さん:
- いいえ、むしろそのとおりです。当たり前を当たり前のまま放置していたら、この開発にはつながらなかったと思います。
2.年齢と部門を越えた議論を重ね、これまでにない技術を生み出した
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- 岳さん:
- 開発方針の柱が固まったところで、いよいよそれを製品に落とし込む工程に進みました。ただ、これまで誰もやっていないことで、設計は容易ではありません。営業チームの「こんなスペックが欲しい」という要望に対して、「そうだよな、でも難しいんだよな……」といろいろ頭を悩ませました。
現行のミシンでは、工具をほんの数度回すだけで釜が0.1mm以上も動いてしまい、0.01mm単位での細かな調整を行うのは非常に困難でした。そこで取り組んだのが、新しい調整機構の開発です。
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- 北村さん:
- これまで100年近く変わってこなかったミシンの調整機構に取り組むには、単に機構の理解だけでなく、お客様の使い方や縫い目が形成される原理など、よりミシンの専門的な知識をあらためて見直す必要がありました。
そこで、各部門のメンバーを交えて新たな発想を出し合う場を設けました。実機を使った勉強会を何度も開催し、各部門がミシンの基礎から応用まで深掘りしながら、一つひとつ課題をクリアしていきました。開発中は、本当に夢に見るくらい悩みました。四六時中考えて、帰りの電車でも考えて……。
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- 岳さん:
- 開発チームは、針や釜の位置を数値化するセンシングを担う「ハード」、取得した情報をパネル表示し現在値・目標値として制御する「ソフト」と「デザイン」、操作性を高める機構を実現する「メカ」の各担当者が一体となって連携しました。
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- 北村さん:
- こうしたプロセスを経て生まれたのが、新技術のDIGIFLEX TUNEです。従来、工具を使いながら、「目視と感覚」で0.01mm単位の調整をしていたのが、パネルを見て、ダイヤルを回して数値を合わせていくことで誰もが簡単に調整できるようになりました。
また、今回例に挙げた針と釜の間隔調整以外にも、これまで「目視と感覚」に頼ってきた他の調整箇所(針の高さ、針と釜のタイミング、針のガイド調整)も同様に数値化し、容易な調整を実現しています。
これにより、調整の必要な箇所が可視化され、調整の再現性が容易に確保されることで、ダウンタイムの大幅な削減につながっています。
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- 松下さん:
- 普段はそれぞれの専門分野で仕事をしているメンバーが、共通のテーマに向かって団結し、シナジーを生みながら開発を進めたことが、今回の成功につながったと感じています。
開発部には、何か問題が起きても「ここにこんな原因があるのでは?」とさまざまな視点から解決策を出す“天才”や“アイデアマン”もたくさんいます。
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- 鬼頭さん:
- もともと開発部では何か新しいことを考える時に、ちょっとしたお祭りというか、部門をまたいで人が集まってワイワイ意見を出し合う文化があります。最近はその輪に若手がどんどん入るようになり、常識で凝り固まっていない柔軟な発想を出してくれます。私たち営業にも率直に意見を出してくれて、時には勢いに圧倒されることもありますが…、若手と議論できるのはすごく良いことです。
他社の方から「ほかにもミシンメーカーを見てきたけど、ブラザーは設計者がまず若いし、どんどん意見を言えるのがすごい。こんな会社は見たことがない」という声をいただいたこともあります。
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- 岳さん:
- 普段から、「これが面白そう」と上司に提案すると、「じゃあ、やってみようか」と前向きに推してくれることが多く、すごく動きやすいですね。
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- 松下さん:
- 業界の当たり前になじみ切っていない若手が多く、普通は0.01mmのデジタル調整なんて無理だと思うところを、「これが実現したらきっとお客様に刺さるはず!」と自信を持って進められたところも、今回の成功要因だった気がします。
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- 鬼頭さん:
- 本プロジェクトのもう一つのポイントは、お客様の課題の本質を捉えたこと。「早く縫えるようにしてほしい」というお客様からよく挙がる声に対して「それはなぜか?」と掘り下げたことで、「生産性を高めたい」という根本のニーズにたどり着き、ではその生産性を最も落としているのは何か?という本質的な考え方ができた──。
良いこと言えた気がする!
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- 一同:
- 言いました!(笑)
3.画期的な技術革新に、各所から驚きの声が上がった
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- 松下さん:
- 実は今回、製品開発前の段階で、「こんな製品があったら売れるよね」と特徴や仕様、値段までを想定した仮想のカタログをつくっていました。それをお客様にも見ていただき、フィードバックを得ながらブラッシュアップしていったものの一つが、今回のDIGIFLEX TUNEでした。
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- 岳さん:
- なお、完成したDIGIFLEX TUNEの資料をお客様に見せると、懐疑的な声が出ることも少なくありません。しかし、実際に機械を動かすと「まさにこういう機能を求めていた」「調整係の自分が(良い意味で)もう必要なくなってしまう」「すべてのミシンにこの機能を搭載してほしい」といった称賛の声がたくさん上がります。これまでになかった新しい機能や価値は、実際に見てもらうことが重要だと実感しました。
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- 松下さん:
- 調整をダイヤルで瞬時に行い、実際に正しく縫えた瞬間、見ていた人が驚きで言葉を失う瞬間が、DIGIFLEX TUNEの価値を表していると感じます。
あるエアバッグ製造工場では、もともとベテラン技術者が一人しかおらず、不在の時は生産ラインが止まっていました。それが、新人でも調整の必要箇所を特定して、ベテラン技術者の調整値を再現できるようになり、安定品質と生産効率の向上が果たせました。お客様からは「ベテランの技術が現場全体で共有できる」と高く評価いただいています。
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- 鬼頭さん:
- 今後、DIGIFLEX TUNEを私たちのコア技術の一つに位置付けて、自動車関連製品をはじめとするノンアパレル市場での導入を広げていきたいです。また今後は、現行の機種以外にもDIGIFLEX TUNEを展開し、アパレル分野も視野に入れた商品展開を積極的に進めていければと思っています。
私は現在ドイツに出向し、グローバル市場に向けた製品展開に携わっています。ブラザーが誇る工業用ミシンを通して、これまで以上に大きなマーケットにアクセスしていきたいです。
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- 松下さん:
- 今後海外赴任を予定しており、鬼頭さんと同じく日本を離れた場所で、現地に根ざした技術サポートや組織づくりに携わっていく予定です。積極的に現場に足を運び、お客様の声を直接伺いながら、真の課題を捉えたソリューションや商品提案につなげていきたいと考えています。
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- 北村さん:
- 現在私は、次期機種開発プロジェクトのリーダーとして、新たな製品開発に挑戦しています。DIGIFLEX TUNEは、縫製業界におけるゲームチェンジャーになると確信しており、営業部門と連携しながらグローバルスタンダードになることを目指したいです。
最終的な目標は、入社当初からの夢でもある、アパレル業界に貢献すること。お世話になったブランドに、自分が開発に携わったミシンを使っていただくことが、大きな目標です。
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- 岳さん:
- 今回のプロジェクトを通じて、「この製品はどのような価値を生み出すのか」「コンセプトをどう捉えるべきか」を深く考えるようになりました。お客様や社会にどのような価値を届けられるかを追求しながら、自分自身もワクワクするような新しい技術や製品を、また生み出していきたいです。
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