SPECIAL HISTORY 1986
ソフトベンダー
TAKERU
ABOUT
TAKERUとは
ソフトベンダーTAKERU(タケル、登場時は「武尊」と表記)は、ブラザー工業が開発した世界初のパソコンソフト自動販売機。1986年に登場し、1997年のサービス終了まで日本国内のパソコン専門店などで稼働していました。ネット回線に接続し、データベースからソフトウエアをダウンロードすることで利用者は店舗在庫を気にすることなくいつでも好きなソフトを買える、当時としては画期的なサービスでした。最盛期には全国に約300台が設置されており、先進的な仕組みはゲームユーザーを中心に支持されました。
BACKGROUND
1980年代のパソコンソフト
1980年代後半から1990年代にかけて、パーソナルコンピューターはビジネスやホビーなどの目的でオフィスや家庭にも普及しはじめ、それにともないパソコン専門店では数多くのパソコンソフトが販売されるようになりました。その多くはフロッピーディスクと呼ばれる磁気媒体にデータが記録され、パッケージとして店頭に並べられていました。
中でもゲームソフトは毎月のように新製品が発売されており、ワープロや表計算ソフトといったビジネスソフトに比べると圧倒的に多くの種類が流通していました。加えて、当時はNECのPC-8801やPC-9801、シャープのX1やX68000、富士通のFM77やFM-TOWNS、そして共通規格のMSXなど、メーカーごとに様々な規格のパソコン機種が存在していましたが、異なる機種同士に互換性はないためソフトウエアは機種ごとに販売せざるを得ませんでした。店頭在庫には限りがあり、品切れした商品はメーカーから取り寄せるために待たされることもありました。
TAKERUのしくみ
そんな中、利用者が店舗在庫を気にすることなくいつでも好きなソフトを入手できるという 、画期的な“ダウンロード販売”を実現したのがソフトベンダーTAKERUでした。本体中央の画面の指示に従ってソフトを選択し、指定された金額を支払うとデータがフロッピーディスクに書き込まれる仕組みになっており、本体内蔵のプリンターで印刷されたマニュアルも持ち帰ることができました。ソフトはメジャー、マイナー問わず販売できたため、同人ソフトの様なパッケージ販売では手に入らない商品も扱うことができたのもTAKERUならではの特徴でした。
TAKERUは3世代に渡りモデルチェンジされており、青いボディーの初代SV-2000、赤いボディーの2代目SV-2100、そして黄色いボディーの3代目SV-2300と、対応機種の拡大、処理速度や通信速度の高速化、操作画面の改良などの進化を遂げながらより多くのソフトを取り扱える様になりました。
3代目TAKERU図解
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01画面
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02貨幣投入口
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03フロッピーディスクドライブ
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04プリンター
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05ハードディスク
そして通信カラオケJOYSOUNDへ・・・
TAKERUで販売されていた商品の中には、 MIDI(Musical Instrument Digital Interface、電子楽器演奏用データの共通規格)と呼ばれるパソコンによる音楽演奏を楽しむための楽曲データもありました。TAKERUと同じ仕組みにより、MIDIデータで流行の楽曲をスピーディーに配信できないか、そうして考え出された新たな事業が通信カラオケでした。こうして1992年、通信カラオケサービスJOYSOUNDが誕生します。通信カラオケは、それまで主流だったレーザーディスク方式に比べて新曲の配信が早く、歌える曲数が多いのが特徴で、若者を中心に大ヒットとなりました。
1990年代後半になるとパソコンは16ビットから32ビットへ、メディアもフロッピーディスクからCD-ROMへと進化し、インターネットが徐々に世の中に普及しはじめます。1997年、TAKERUのサービスはその役目を終え終了しました。しかし、TAKERUで培われた通信技術は、ソフトウエア配信とは別の形でお客様のもとへ価値を届けることになったのです。
TAKERUが活躍した時代のパソコン向けのゲームソフトというと、フロッピーディスクの容量を活かした、時間をかけて遊べるアドベンチャーやロールプレイング、シミュレーションというジャンルに人気があったと思います。
アドベンチャーゲームは割とパソコン初期に流行したジャンルで、「ポートピア連続殺人事件」、「カサブランカに愛を」、「ジーザス」などが有名です。初期のアドベンチャーはコマンドと呼ぶ単語を自分で打ち込むシステムで、単語探しやパズルの様な趣向がありました。TAKERUでは、専売ソフトとして「マデリーン」というゲームが有名で、当時のTAKERU PRESS(ブラザー工業発行のフリーペーパー)の表紙にもなっていました。アドベンチャーゲームは時代とともに、入力がより簡単な選択式に、グラフィックがより緻密になっていき、後のサウンドノベルなどへ発展していきました。
ロールプレイングゲームは当時からとても人気だったジャンルで、パソコン向けには「ハイドライド」「ザナドゥ」「イース」など数多くの名作が存在します。実は日本のパソコン向けロールプレイングゲームの形態は独特で、アクションやパズルなど様々な要素を取り込んで独自の世界観を築いていました。TAKERUで有名なのはやはり「ソーサリアン」の追加ディスクです。ソーサリアンは外部データを読み込んで様々なシナリオを遊べるシステムを持っており、「セレクテッドソーサリアン」をはじめTAKERUでしか手に入らない追加シナリオが複数発売され人気でした。
一方、シミュレーションゲームは種類こそあまり多くはありませんが根強い人気を持っていたジャンルで、「信長の野望」と「大戦略」という2つのシリーズは群を抜いて人気がありました。いずれも六角形のマスで区切られたマップで戦わせるウォーシミュレーションですが、信長の野望が戦国時代の日本をマップにしているのに対し、大戦略は様々なマップで戦いを繰り広げられるのが特徴でした。TAKERUでは発売元であるシステムソフト以外からも、様々な大戦略シリーズのマップ集が売られていました。
ゲーム保存協会では、1970~1990年代の魅力的な日本のゲームの歴史を貴重な文化財として保管し、将来に残していく活動を行っています。様々なゲームを保管、修復する中で、散逸してしまったゲーム資料の確保はまだまだ十分ではありません。ゲーム文化の保存に関心がある方はぜひゲーム保存協会に助力ください。
発売元(社名はいずれも当時):ポートピア連続殺人事件、ジーザス・・・エニックス/カサブランカに愛を・・・シンキングラビット/マデリーン・・・シンキングラビット/ハイドライド・・・T&E SOFT/ザナドゥ、イース、ソーサリアン・・・日本ファルコム/信長の野望・・・光栄、大戦略・・・システムソフト